研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05158
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
寺尾 潤 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00322173)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 有機-無機ハイブリットデバイス / ロタキサン / シクロデキストリン / 被覆型接合分子 / 被覆効果 / サイクリックボルタンメトリー / 接合密度 / 共役分子 |
研究実績の概要 |
従来の有機─無機電子伝達系の問題点は、分子間の相互作用による擾乱であった。効率的な光の捕集と無機材料への電子伝達を同時に実現するにためには、無機表面に対して高密度に分子を配列する必要がある。しかし、電子伝達や光捕集に優れた共役分子は無機固体表面上で凝集し、無秩序な分子間相互作用によって物性値が低下することが知られている。従来はこれを防ぐために、非凝集性の分子をマトリックスとして混合する手法が用いられており、素子の低密度化が犠牲となっていた本研究では、光―物質変換における新機軸の創出を目指し、被覆型共役分子の片末端に、酸化チタンをはじめとする金属酸化物に接合可能なカルボン酸・亜リン酸を導入し、多様な無機材料を介した電子伝達系を構築した。即ち、被覆型ユニットの両端に光捕集系となるドナーユニットと無機界面への接着部位を導入した共役接合分子を合成し、金属酸化物や単体金属からなる無機表面への接合を評価した。接合状態は原子間力顕微鏡観察やサイクリックボルタンメトリーを用いて測定した。被覆や共役構造を探索し、超分子構造が実デバイスに与える効果を分子内外の擾乱性に着目して解析した。ロタキサン型接合分子に光捕集ユニットを連結し、有機─無機界面における電子伝達効率を評価した。尚、無機半導体としては従来の酸化チタン等の酸化物にとどまらず、酸ハロゲン化物などの混合アニオン系も検討し、本手法の高い汎用性の実証を目指した。効果的接合によって得られた被覆型電子伝達系において、分子系の光吸収で生じた励起電子を無機半導体材料へと電荷分離して効率良く取り出し、水分解のエネルギー源として用いることで、効率的な水分解系を構築した。いずれも被覆による分子間相互作用や熱擾乱に対する抑制効果を活用して、夾雑環境下や幅広い温度領域下であっても安定にかつ高効率で稼働する光変換系を実現した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
近年,高度に機能化された有機共役化合物を無機基板表面に修飾した有機-無機ハイブリットデバイスが達成されている。しかし,通常は共役部位間のπ-π相互作用による凝集を回避するために,希薄条件やマトリックスを用いた低密度な修飾が行われており,物性向上のための高密度な分子接合は困難である。そこでπ-π相互作用を抑制するために,環状分子である完全メチル化シクロデキストリンに共役分子を貫通させ,ロタキサン構造を構築し,先端部位にフェロセンを有する被覆型接合分子の合成と物性を評価した。この被覆型接合分子末端にはITO基板に直立して接合可能な亜リン酸部位を導入した。包接の効果を観察するため,包接分子と非包接分子のメタノール溶液に浸漬したITO基板を原子間力顕微鏡(AFM)で観察し,垂直方向の高さ測定を行った。その結果,非包接体は凝集体が確認されたのに対し,包接体は分子間π-π相互作用が抑制され,凝集することなく基板に直立して接合した。このフェロセン部位を有する被覆型接合分子では,AFM画像において分子の高さ(約2 nm)に相当する構造体が観測された。また被覆型接合分子の浸漬濃度の増加に従って基板上の接合密度が増大し, 被覆効果により単分子性を維持したまま, 高密度に界面を共役分子により修飾できることが明らかとなった。一方,対応する非包接体では,分子が接合していないと考えられる表面が観察され,また, 分子の凝集体に相当する構造体が見られた。このような凝集体の形成は,被覆されていない共役鎖間で強いπ-π相互作用が働くことに起因すると考えられ,単分子性の確保には被覆が重要であるということを示唆する結果が得られた。次に,被覆型接合分子を接合させたITO基板に対してサイクリックボルタンメトリー測定を行い,接合密度の変化について調査した結果,濃度の増大に従って接合密度の値が収束する結果が得られたため。
|
今後の研究の推進方策 |
<有機・無機界面における電荷移動特性の定量>ロタキサン型電子伝達系に光捕集ユニットを連結し,有機-無機界面における電子伝達効率を評価する。被覆構造によって,他分子が周囲に存在する夾雑系においても効率的に電子移動が生じるなど,分子内外の擾乱抑制効果を評価する。光照射に対する電子移動効率・温度依存性・夾雑物の効果などを,被覆の有無で比較する。同時に,電荷輸送速度に対する被覆の効果を定量する。電荷移動速度はフェロセンなどの酸化還元応答性を有する接合分子に対して,サイクリックボルタンメトリーとLavironの式を用いた手法によって評価する。距離依存性や被覆位置依存性を比較することで,無機材料への電子伝達における被覆分子の優位性を示すと同時に,物質変換・光電変換素子への分子設計指針を得る。これによって,電子伝達系に対する被覆の効果をより詳細に理解する。 <水の光分解系・光電変換における被覆効果の解明>光捕集ユニットと反応系を被覆型電子伝達系で接続し,実際に光 - 物質変換分子を合成する。物質変換デバイスでは逆電子移動の抑制が重要であり,初年度のドナー・アクセプターの系から得られた情報に基づき,ユニット接続官能基や共役主鎖骨格を最適化し,水の光分解系を実現する。光捕集ユニットとしては,有機材料に加えて無機材料も対象とし,本電子伝達系における接続ユニット汎用性を最大限に活用する。さらに超分子電子伝達系の応用展開として,物質変換以外の光変換素子である光-エネルギー変換素子の構築を目指す。酸化インジウムスズ(ITO)などの導電性の無機固体を電極として接続した被覆型電子伝達系に対して,励起電子を無機材料へと電荷分離させ,光電流として取り出す。被覆の熱擾乱抑制効果を用いて,幅広い温度領域で安定に動作する光電変換素子を目指す。
|