研究実績の概要 |
光合成の光化学系II(PSII)で水の酸化を行う酸素発生中心(OEC)のMn4Caクラスターは「歪んだ椅子」と呼ばれる非対称な構造を持つ。これに類似の錯体を合成するため、我々は嫌気条件で籠型配位子に強塩基性のアミドを有する遷移金属塩と水を順次加えてM3(OH)3型の三核錯体(Mn, Fe, Co)を得た。さらに一つの水分子が内部で一つの金属中心と結合した構造(Fe, Co)やヘミキュバン型コアを有する錯体(Mn, Fe, Co)が得られ、天然のMn4Caクラスターに類似したMn3Na(OH)4型の非対称な異種金属含有のキュバン型マンガンクラスターの形成過程が明らかとなった。さらに電気化学的な性質の検討も行い、異種金属のキュバン型マンガンクラスターの形成に伴う酸化還元電位の変化を測定し、ナトリウムイオンとカルシウムイオンのイオン交換が可能であることや、アルカリ・アルカリ土類金属が電荷の補償の効果だけでなくキュバン構造内部に挿入されることがマンガンクラスターの酸化還元挙動に大きく影響することを改めて明確に見出した。 次に複数のβ-ケトイミナート部位を持つ複数の分岐状配位子を用いて多核錯体(Mn, Fe, Co)の合成を行った。前述の籠型配位子と同様に嫌気条件で分岐状配位子に強塩基性のアミドを有する遷移金属塩を加えるとマンガン錯体においてはまず三核錯体が得られ、分岐した鎖長を伸長して水の添加も行うと、ヒドロキソ基で架橋されたcorner-shared-cubane状構造を有するMn7(OH)8型の七核錯体も得られた。さらに分岐状配位子の立体障害をより大きく調整して酸化剤と水を添加することで、それぞれ別種のヘミキュバン型のMn4(OH)2型の四核錯体などの種々のクラスター構造が得られた。
|