研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05163
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大岡 宏造 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (30201966)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成 / 反応中心 / 電子移動 / キノン / FTIR / 超高速分光 / ヘリオバクテリア / 緑色イオウ細菌 |
研究実績の概要 |
1.ヘリオバクテリア反応中心の結晶化・構造解析:異なる空間群の結晶(C2とR32)が得られており、米国グループが2017年に報告した高分解能データ(2.2オングストローム)を目指してスクリーニング方法や凍結方法などの改良を試みた。現在、目標であった高分解能にほぼ到達することができ、詳細な解析を進めている。米国グループに存在していなかったキノン分子が、我々の構造中には存在していることが明確になった。構造の相違は、電子移動反応の素過程を反映している可能性がある。またコアタンパクとPshBサブユニット(2[4Fe-4S]型フェレドキシン)との共結晶化を行い、回折実験可能な回折強度データが得られている。 2.フーリエ変換赤外分光法(FTIR法)による還元型キノンの検出の試み:Kevinら(米国)は、ヘリオバクテリア膜標品に強いパルスレーザー光を連続的に照射することで、還元型キノンの生成をHPLC解析により確認している。そこでヘリオバクテリア膜標品に光を照射し、FTIR法による還元型キノンの検出を試みた。同じ手法で紅色細菌を用いた膜標品では還元型キノンが検出されているにも関わらず、還元がたキノンは検出できなかった。タイプ2反応中心におけるQH2生成とは異なった反応機構をもつ可能性がある。 3.超高速分光による過渡吸収変化の測定:ヘリオバクテリア反応中心のサブピコ秒からナノ秒までのスペクトル変化(400-900nm)の時間展開を丹念に調べなおすことを始めた。まだ予備的段階ではあるが、670nm(8-OH Chl a)励起により時定数2.4 nsの未知の成分が検出された。今後、再現性を確認する必要がある。 4.緑色イオウ細菌反応中心の結晶化:コアタンパクにHisタグを付加した反応中心複合体はすでに作成済みである。結晶化に適した安定な複合体標品の調製方法について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヘリオバクテリア反応中心の構造基盤に関わる解析については、当初の想定以上の結果が得られ、順調に進んでいる。研究実績の概要で述べているが、我々の標品中には長く議論の的となっていた二次電子受容体キノンが見出された。このことはこれまで知られていない未知の電子移動反応・経路が存在している可能性があり、今後さらなる分光学的解析が必要となってきた。 そのためにまずはフーリエ変換赤外分光(FTIR)を用いることで、光駆動反応によるキノン還元(キノール生成)を検出する試みを実施した。その理由は、すでに米国のアリゾナグループ(Kevinら)は、ヘリオバクテリアの膜標品に光照射することにより、還元型キノン(キノール)が蓄積することを見出しているからである。しかしながら紅色細菌においてその有効性が十分に確認・報告されているにも関わらず、同様の手法では還元型キノンは検出されなかった。米国グループは還元型キノン検出において強いパルスレーザー光を連続的に照射しているため、副次的反応の可能性も示唆された。今後も生理的条件に近い実験条件で、キノン還元検出を試みていく必要がある。 さらに超高速分光による過渡吸収変化の測定では、測定標品の安定性の確認と照射するレーザー光の出力に関しての予備実験が必要であり、実際の測定は次年度に持ち越すことになった。 一方、新たに着手した緑色イオウ細菌反応中心の結晶化では、標品調製の改良に時間を費やした。精製途中で複合体が解離しやすいことが問題で、ようやく解決の糸口を見い出すことができ始めている。
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今後の研究の推進方策 |
ホモダイマー型反応中心の構造基盤に関わる解析:我々のヘリオバクテリア反応中心の結晶構造解析は目標であった高分解能を達成することができ、キノンの存在を明らかにした。結合部位環境は光化学系1反応中心のキノンA1の疎水環境とは大きく異なるが、興味深いことにArg残基とπ-π相互作用する強い結合であった。一方において米国のアリゾナグループ(Kevinら)は、ヘリオバクテリアの膜標品に光照射することにより、還元型キノン(キノール)が蓄積することを見出している。我々は反応中心に結合するキノンは二次電子受容体(A1)として機能すると想定していたが、未知の反応機構・経路が存在する可能性も残されている。しかしながら最初の試みとして行ったフーリエ変換赤外分光(FTIR)を用いたキノールの生成の検出はネガティブな結果であった。用いた手法は紅色細菌においてその有効性が十分に確認・報告されている方法と同じであるが、反応特性が異なる可能性もある。膜標品は嫌気的に調製してきているため、ほとんどがすでに還元型キノンである可能性も否定できない。今後は膜標品の調製・処理方法を検討するとともに、可溶化反応中心に酸化型キノンを添加した標品を調製するなどして再度、測定を行う予定である。 超高速分光による過渡吸収変化の測定:今後、詳細な測定を実施する。今まで測定されていなかったサブナノ秒レベルのスペクトル変化(400-900nm)の時間展開を丹念に調べていく。 緑色イオウ細菌反応中心の結晶化:精製途中で複合体が解離しやすいことが問題であったが、dim-light下(ほぼ暗所下)では安定な複合体標品が調製できることが確認できている。X線結晶構造解析とともにクライオ電子顕微鏡による構造解析に挑戦していく予定である。
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