研究実績の概要 |
金属錯体を使用した水の光還元反応は, 近年注目されている水素を生成する為の有望な手法の一つとして期待されている。同触媒反応において、現在主流となっている水素発生触媒は、ニッケル、コバルト、ロジウム、白金などを含む単核金属錯体が殆どであり、多核金属錯体を使用した例は比較的少ない。一方で、自然界において光反応を司る酵素の活性中心は、金属イオンを複数個有する多核金属錯体の様な配位環境を形成している。また、これらの酵素では、「水素イオンの脱離と電子移動が同時に生じるプロトン共役電子移動(PCET: Proton-Coupled Electron Transfer)」によって、低過電圧で触媒反応が生じ易くなる様に構造が制御されている。この背景に対し、我々化学者もPCET機構を利用した水分解触媒を数多く開発しているが、それらの多くは、「配位子の脱プロトン化に伴う酸化還元電位の制御」を狙ったものが殆どであり、PCETを斬新的な方法で水分解触媒に使用した例は、極めて少ない。 本年度の研究では, アーチ型ジカルボン酸配位子(1,8-アントラセンジカルボン酸)が配位したロジウム二核錯体の開発および水素発生反応に関する実験と理論研究に着手した。合成したロジウム二核錯体は, NMR, ESI-TOF-MS, 元素分析, IR, Ramanスペクトルによって同定した。また, 単結晶X線構造解析にも成功し, 目的とするロジウム二核錯体が合成できていることを確認している。電気化学測定の結果, 得られたロジウム二核錯体は, プロトン源である酢酸の添加に起因して水素発生に伴う触媒電流を示した。 また、pH依存電気化学測定から同ロジウム二核錯体がPCET機構を経て水素発生を電気化学的な水素発生を行ったことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アーチ型ジカルボン酸配位子(1,8-アントラセンジカルボン酸)の合成およびその配位子が配位したロジウム二核錯体の開発に成功し, NMR, ESI-TOF-MS, 元素分析, IR, Ramanスペクトルによって同定することができた。また,目的物質の単結晶X線構造解析にも成功し, 2箇所のカルボン酸のうち1箇所のカルボン酸のみがロジウム二核錯体に配位子した構造を形成している事が確認できた。電気化学測定の結果, 得られたロジウム二核錯体は, プロトン源である酢酸の添加に起因して水素発生に伴う触媒電流を示した。 また、pH依存電気化学測定から同ロジウム二核錯体がPCET機構を経て水素発生を電気化学的な水素発生を行ったことを明らかにしている。光水素発生反応に関しては, シクロメタレート型イリジウム錯体を光増感剤として使用した人工光合成システムを作成し, 可視光照射条件下で水素発生の経時変化を確認した。その結果, 同人工光合成システムは, 既報のアーチ型配位子を含まないロジウム二核錯体の同様の反応システムよりも優れた光水素発生効率を示すことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究では、優れた触媒活性を示す事が明らかになっているDimer-of-Dimer型ロジウム四核錯体に、前年度と同様のアーチ型ジカルボン酸配位子(1,8-アントラセンジカルボン酸)を連結させたPCET型ロジウム四核錯体の開発と光水素発生反応に着手する。基本骨格となるロジウム二核骨格は, 前年度に合成したロジウム二核錯体と同様である為, ロジウムの金属核数が増加した事・分子軌道相互作用が新たに形成された事に伴い, 水素発生効率が如何に影響を受けるかを比較し検証する。開発したロジウム四核錯体は, NMR, ESI-TOF-MS, 元素分析, IR, Ramanスペクトル, 単結晶X線構造解析で同定を行う。また、前年度に開発したロジウム二核錯体と同様に、電気化学測定・分光測定・量子化学計算を実施する事で反応機構の詳細を検討する。
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