研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05167
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
磯部 寛 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 特任准教授 (00379281)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 光合成 / 光化学系II / マンガンクラスター / 水分解反応 / 機能発現 |
研究実績の概要 |
光化学系II複合体にあるMnクラスターによる酸素発生機構の解明を困難にしている要因として、X線回折法の分解能の制約ゆえ水素原子の位置(プロトン化状態)を特定することが困難であること、光誘起反応によって生じる反応中間体が異なるSi状態(i = 0-3)からなる混合物であることに加えて、各Si状態も分光学的に明確に区別できる複数の化学種からなる混合状態であることが挙げられる。平成30年度は、O-O結合生成メカニズムを考察する上で非常に重要となるS3状態に関する密度汎関数理論(DFT)計算を実行し、基質水分子がどのような結合状態にあるのか、分光学的な不均一状態とは何を意味しているのかを理論的に考察した。 S3状態において生成可能な化学種に関するスピン・電子状態を詳細に解析した結果、基底スピン状態はMnクラスターの形式的な酸化数に依存してS = 0からS = 6までを取り得ることが明らかになった。更に、基質が脱プロトン化することで生成するオキソ種とスーパーオキソ種では金属と配位子の間に共有結合性があり、基底スピン状態はその結合状態や基質の配向の微妙な変化にも敏感であることが分かった。例えば、オキソ種は構造変化を伴ってオキシルラジカルと呼ばれる酸化種に変化し、それに応じて基底スピン状態がS = 3からS = 6に転移することが分かった。以上の計算結果とXFEL及びEPR実験結果との間の整合性を考慮すると、閃光照射により引き起こされる光化学反応により2つの基質水分子はS3状態までにMnクラスターに結合し、架橋オキソ配位子と末端ヒドロキソあるいは末端オキシルラジカル配位子になることが推測された。つまり、S3状態において異なるスピン状態が共存するということは基質が部分的に活性化されていることを意味することが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要で述べたように、DFT法を用いた理論的アプローチにより、Mnクラスターはスピン・電子状態を柔軟に変化させることで金属サイトに結合した基質の酸化還元反応を効率的に引き起こすことが明らかになった。その結果、触媒構造と酸素発生機能の関連性を理解する上で重要な知見を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、Mnクラスターの立体構造変化とスピン転移及び基質の化学変換の連動性に着目することで、「歪んだ椅子」型構造を有する触媒の機能発現機構を物理法則に基づく動作原理として理解することを目指す。その際、XFEL実験により得られた最新の情報を最大限に活用することを計画している。
|