研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05170
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
恩田 健 九州大学, 理学研究院, 教授 (60272712)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 時間分解赤外分光 / 人工光合成 / 反応ダイナミクス / 光化学 |
研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者が独自開発した時間分解赤外振動分光(TR-IR)装置を活用し、人工光合成や生物の光合成における過渡的な状態の解明、およびそれに基づくメカニズムの詳細な解明をめざしている。さらに、既存の装置では測定が困難な系の測定を可能にする装置開発も同時に行うことも目的としている。 本年度は、既存のTR-IR装置および過渡発光スペクトル測定装置を用いて、CO2還元光触媒であるReホスフィンカルボニル単核錯体の励起状態構造と光物性、さらにそれに光増感剤を結合させたRu-Re 二核における電子移動過程のTR-IR測定とデータの解析を進めた。その結果、前者の単核錯体では、ホスフィンに結合したフェニル基の光構造変化が、その光物理的性質、すなわち発光波長や励起状態寿命に大きな影響を及ぼし、その触媒活性も支配していることを示した。一方、後者の二核錯体では、光増感剤であるRu錯体から触媒部であるRe錯体への電子移動過程を実時間で観測することに成功し、さらにそのメカニズムがアルキル鎖を通したスルーボンド型であることも明らかにした。また光物質変換に関連する物質系として、光相転移物質および光応答性液晶のTR-IR測定およびその光物性変化と構造変化との関係についても明らかにした。これらはより複雑な人工光合成系を構築する上での基礎的な知見となる。 新たな領域内共同研究としては、安価な光増感剤として期待されているCu錯体の励起状態構造変化、光合成植物における光毒性制御に関与するクロロフィル分子の失活過程、空間制御により長寿命化されたRuターピリジン錯体の励起状態構造の解明にも取り組み、予備的なTR-IRの観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来から取り組んできたRe錯体を用いた各種CO2還元光触媒のメカニズム解明に関しては、データが十分揃い、その解析も順調に進んだ。さらに新たに人工光合成、生物の光合成を研究するグループと共同研究をスタートさせ、測定試料の決定、測定条件の決定などを経て、予備的なデータを得るところまで来ている。しかし一方で、新たな装置開発の方は、既存の装置の老朽化による故障が続き、その修理に多くの時間とお金を費やしたためあまり進んでいない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、新たに取り組み始めた人工合成、光合成関連物質の光機能と構造変化の関係のさらなる解明を進め、論文としてまとめる。さらに、TR-IR装置の大元の光源において問題となりそうな箇所の修理がほぼ済んだため、当初の計画に従い、高強度狭帯域ピコ秒パルス光源を用いた3つの時間分解振動分光装置、すなわち①ピコ秒波数掃引型TR-IR、②ピコ秒時間分解ラマン、③時間分解2次元赤外振動分光(TR-2DIR)の製作を行う。これらの手法によりこれまで測定出来なかった系の励起状態の性質、反応中間体の検出、電子移動、エネルギー移動過程などの実時間その場観測およびそのメカニズムの解明を行う。さらに生物の光合成研究のグループとも共同で、これらの測定手段、得られた成果が、より複雑ながら共通の過程をもつ光合成過程の理解に役立てることもめざす。
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