研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05180
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
長澤 裕 立命館大学, 生命科学部, 教授 (50294161)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光合成初期過程 / エネルギー移動 / 電子移動 / フェムト秒超高速分光 / 時間分解分光 / コヒーレント分光 / 縮退四光波混合 / フォトンエコー |
研究実績の概要 |
光合成初期過程における光励起ダイナミクスに関して、フェムト秒時間分解分光により、領域内において次のような共同研究を行っている。a) クロロフィル誘導体cyclopheophorbide-a enol (cPPB-aE)の消光ダイナミクス(立命館・民秋研)、b) 光捕集アンテナ複合体LH2バイオハイブリッド内におけるエネルギー移動の高効率化およびLH1-RC複合体までのエネルギー移動と電荷分離反応の完全追跡(名工大・出羽研)、c) 光化学系Ⅱ反応中心(PSⅡ-RC)複合体におけるカロチノイド光励起に始まる光合成初期過程(岡山大・梅名泰史)、d) 緑色硫黄細菌の反応中心(RC)における光合成初期過程(立命館・浅井智広)。 本年度はとくにクロロフィル誘導体cPPB-aEの消光ダイナミクスについて研究成果をまとめ、論文として発表した。光合成系の光捕集色素であるchlorophyll (Chl)類は、比較的励起状態寿命が長く、吸収した光エネルギーが光合成に消費されなかった場合、項間交差を経て三重項状態が生じ、ここから酸素分子へのエネルギー移動により、有毒な一重項酸素が生じる。藻類を補食する水生微生物等でも、体内に取り込んだChl類の光毒性が問題になるため、Chl-aを無蛍光性のcPPB-aEに変換して無毒化するものが存在する。cPPB-aEは光励起してもすぐに消光し、好気下でも一重項酸素を生じない。そこで、cPPB-aEについてフェムト秒時間分解過渡吸収スペクトル測定を行った。その結果、光励起直後、時定数140 fsで生成した過渡種が、寿命450 fs程度で基底状態へ超高速で無輻射失活することが判明した。この過渡種の生成は、cPPB-aEの励起状態における2種類のジケトナート異性体間のプロトン移動による熱平衡化を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各研究テーマの進捗状況は以下の通りである。 a) クロロフィル誘導体cyclopheophorbide-a enol (cPPB-aE)の消光ダイナミクスについて、立命館大学生命科学部の民秋研究室と共同研究を行った。cPPB-aEについてフェムト秒時間分解過渡吸収(TA)スペクトル測定を行い、超高速のプロトン移動によって生成すると考えられる中間体を観測した。この結果は論文【C. Ota, et al., Photochem. Photobiol. Sci., 18, 64-70 (2018)】として報告した。 b) 光捕集アンテナ複合体LH2バイオハイブリッドについて、名工大院の出羽研究室と共同研究を行った。LH2バイオハイブリッドにさまざまな人工色素を付加し、色素とLH2間のリンカーの長さを変える等して、エネルギー移動への影響を調べた。さらに、脂質二重膜中でバイオハイブリッドLH2とLH1-反応中心(RC)複合体を会合させ、人工色素→LH2→LH1→RCと順次エネルギー移動が起こる様子を観測し、最終的にRCで電荷分離反応が起こることを確認した。この結果は順次論文にしていく予定である。 c) 光化学系Ⅱ反応中心(PSⅡ-RC)複合体におけるβ-カロテン光励起に始まる光合成初期過程について、岡山大異分野基礎科学研の梅名泰史准教授と共同研究を行った。その結果、RC中の特定のβ-カロテンを光励起することに成功し、そのエネルギー移動と電荷分離ダイナミクスを観測した。その結果、周辺アンテナ複合体のβ-カロテンを励起した場合とは異なるダイナミクスが観測され、現在論文として投稿中である。 d) 緑色硫黄細菌(GSB)の反応中心(RC)における光合成初期過程について、立命館大学生命科学部の浅井智広講師と共同研究を行った。TAスペクトル測定によりGSB-RC中の電荷分離ダイナミクスを観測した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の研究テーマについて研究を推進していく予定である。 a) 立命館大学生命科学部の浅井智広講師と共同研究(緑色硫黄細菌(GSB)の反応中心(RC)の初期過程ダイナミクス)は、現在までの結果をまとめ、必要な追加実験を行っていく。 b) 立命館大学生命科学部の民秋研究室との共同研究で、クロロフィル(Chl)誘導体methyl pyropheophorbide-a (MPPa)について、縮退四光波混合の一種である3パルスフォトンエコー(3PPE)測定を行い、励起状態の位相緩和(デコヒーレンス)ダイナミクスを観察する。光合成系の光捕集アンテナ蛋白質複合体では、光励起で生じた励起子が波動のように複数の色素上に非局在化し、反応中心への最適経路を探索してエネルギー移動していくとされる。そのためには、Chl等のアンテナ色素分子自体に、分子振動や周囲の熱浴との相互作用を低減し、コヒーレンス(可干渉な波動性)を長時間維持する機能があるのではないかと考えられる。そこで、MPPaについて、3PPE測定を行い、位相緩和時間を測定する予定である。さらに、Chl誘導体の会合体についても同様な実験を行い、電子状態のコヒーレンスとエネルギー移動ダイナミクスの関係を明らかにする。 c) 近大理工佐賀研究室との共同研究で、光捕集アンテナ蛋白質LH2のバクテリオクロロフィルB800結合部位に異種のChl類を挿入したときのエネルギー移動ダイナミクスを時間分解分光によって解明する。 d) 東京理科大の鞆研究室との共同研究で、単離した光化学系Ⅱ反応中心(PSⅡ-RC)のβカロチンを光励起したときの光合成初期過程ダイナミクスを解明する。PSⅡ-RCには2種のβカロチンが存在するため、それぞれを励起した場合の相違を検証する。
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