研究領域 | 光合成分子機構の学理解明と時空間制御による革新的光ー物質変換系の創製 |
研究課題/領域番号 |
18H05185
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研究機関 | 株式会社豊田中央研究所 |
研究代表者 |
山中 健一 株式会社豊田中央研究所, エネルギー触媒研究室, --- (40418455)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光捕集 / アンテナ / メソポーラス / 有機シリカ / 時間分解分光 |
研究実績の概要 |
メソポーラス有機シリカ(PMO)は、有機基とシリカが共有結合した骨格と、規則的なメソ細孔を併せ持つ機能性材料である。我々はこれまで、PMOの細孔壁中の有機基が光を吸収し、細孔中の色素分子へのエネルギー移動が起きることにより、色素分子の蛍光が増強される光捕集アンテナ機能を見出した。その機構はフェルスター型のエネルギー移動で概ね説明できた。このPMO光アンテナのさならる高性能化および応用展開をめざし、新規PMO光アンテナの合成と、その機構解明を実施した。 まず、メチルアクリドンを骨格有機基とするPMO(MeAcd-PMO)に白金(Pt)を担持した可視光応答光触媒(Pt/MeAcd-PMO)を合成した。犠牲試薬を含む酢酸緩衝溶液に懸濁させて光照射(400 nm)したところ、量子収率4~5%で水素が発生した(Pt担持量2 wt%の場合)。Ptナノ粒子数とMeAcd分子数の見積もりを行ったところ、Ptと隣接しているMeAcd基の比率よりも高い量子収率で水素が発生したことが示された。そこで、フェムト秒過渡吸収の測定を行い、反応機構を調べた。励起光強度が高い場合、励起一重項状態(S1)同士が衝突して減衰が速くなるS1-S1消滅が観測され、S1がMeAcd基間をマイグレートしていることが示唆された。この結果から、Ptに接触していないMeAcd基が光を吸収した場合、Pt近傍のMeAcd基へのエネルギーマイグレーションが起きるため、少ないPt担持量でもPtへの電子移動が起きて水素が発生したことが示唆された。本研究の成果は、天然の光合成における光アンテナのような、励起子的な振舞いによるエネルギー伝達機構を備えた光アンテナを人工的に合成するための足掛かりになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の実施計画は、メチルアクリドンPMOを合成し、エネルギーマイグレーションを分光学的に検証することであった。粉末試料のフェムト秒過渡吸収測定に時間を要したが、年度内に実験およびデータ解析を完了することができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、平成30年度に得られた結果を論文として発表する。既に着手済みであり、投稿を急ぎたい。次に、アクリドン以外の有機基や、有機シリカナノチューブへの展開を試みる。さらに、本新学術領域の趣旨である「天然光合成と人工光合成の融合」および「光子束密度問題の解決」に貢献することをめざし、PMOへの酵素固定やPMO膜を用いた光電極の合成、PMO光アンテナに反応量子収率を高める機構の導入を検討する。
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