スィク教ネットワークのハブとなる寺院のほか、スィク教組織によるイベントへの参与観察を、スィク教徒移民の多いトロント近郊にて実施した。スィク教徒移民のおもな出身地であるインドのパンジャーブ地方を、スィク教徒のための国家として独立させる運動とその宣伝が以前に増して活発に行われていることを確認した。寺院やイベントに足を運ぶ人々に対し、直接声をかけるようなことはないが、ポスターやフライヤーが至る所に配置され、パンジャーブ独立のための運動とその機運を高めようとしていることは明らかであった。ただ、寺院をこれまで通り訪れ、イベントに参加する人々に独立運動について尋ねると、独立やそのための運動に賛同せず、嫌悪を示す人や関わらないようにする人も少なくなかった。一方、インドのパンジャーブでは、インド中央政府による新たな農業関連法の成立に対する抗議デモが続き、法案の廃止に追い込む事態となっていた。この抗議デモには、農業に従事する多くのスィク教徒がパンジャーブ各地から参加していたが、これをサポートしていたのが海外のスィク教組織であった。そしてインドでの抗議デモの様子は移住先カナダにおいても高い関心を集めていた。このように、インド国内外でインド中央政府とスィク教勢力が対立する様子がみられたが、そこにはインド国内政治、困窮するパンジャーブ農民、パンジャーブ移民のカナダ定住と付随するエスニック・ビジネス、カナダ国内政治、パンジャーブの独立運動などさまざまな次元の現象と、それら全てに横断的に関わるスィク教のネットワークが絡んでいることを、これまでの研究および当該年度の調査から見出すことができた。スィク教のネットワークは、非国家的な独自性をもちつつも、対インド政府という国家との関わりを問い続け、さらには、パンジャーブの国家としての独立を目指すなど、逆説的に国家の存在に根ざしていることが考察できた。
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