研究領域 | パレオアジア文化史学ーアジア新人文化形成プロセスの総合的研究 |
研究課題/領域番号 |
19H04527
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
国武 貞克 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (50511721)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 後期旧石器時代初頭(IUP期) / チョーカン・バリハノフ遺跡 / 小口面型大型石刃核 / 地床炉 / 放射性炭素年代分析 / カザフスタン / 中央アジア西部 / OSL分析 |
研究実績の概要 |
2019年度は、カザフスタン南部のチョーカン・バリハノフ遺跡の発掘調査を実施した。チョーカン・バリハノフ遺跡では、昨年の調査でその存在を把握し得た第8・9文化層の石器組成を解明することを目的として、調査区を拡張して第8・9文化層を面的に広げた。その結果、第8文化層では、15㎝を超える大型石刃を小口面から剥離した痕跡をもつ石刃核を含む石刃核の集積地点がみつかり、石器製作技術からみて後期旧石器時代初頭(IUP期)の可能性が高いと判断した。その下の第9文化層では、石刃が面的に剥離された石核を中心に石器製作地点を検出した。その技術的な特徴は中期旧石器的であり、第8文化層及び第9文化層が、本研究課題が目指すIUP期の石器群である可能性が高いと判断された。さらに、第9文化層の検出面から20㎝下層より、この遺跡で初めて地床炉が検出され、多くの炭化物が採取された。第8・9文化層の形成時期を特定するには絶好の年代測定試料となる。カザフスタン南部では従来、チョーカン・バリハノフ遺跡第6文化層が最古の文化層であった。しかし、申請者の発掘調査によりその下層から3枚の文化層を新しく検出するとともに、その石器製作技術は、中期旧石器時代と後期旧石器時代の両方の技術が認められること、アルタイ地方のIUP期石器群にみられる大型石刃の生産が確認されたこと、そしてその年代を明確に示すであろう炭化物試料を豊富に伴う炉を発見したことが大きな成果であった。 炉から検出された炭化物を放射性炭素年代測定を実施したところ、IUP期の後半から末期に該当する可能性が高い年代値が得られている。さらにOSL年代分析も進めており、これについてはまだ結果が得られていない。 このように本研究課題が目指すIUP期の石器群を新しく検出した。中央アジア西部では未だ確実なIUP期の石器群は知られていないため、非常に重大な成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、研究期間が2か年であるため、短期間で確実な成果を上げる必要があり、そのために目標とする中央アジア西部におけるIUP期の石器群の最有力候補の遺跡の中心部を深く発掘調査し、その実態を把握することを研究方法として掲げている。初年度となる2019年度には、申請者のこれまでの発掘調査の成果から、カザフスタン南部で最有力候補とみていたチョーカン・バリハノフ遺跡の発掘調査を行った。 これまで、中央アジア西部では確実なIUP期の資料は得られていないため、2019年度の本遺跡の発掘調査においても、最下層の文化層でその可能性がつかめる程度の資料を獲得することが出来れば、十分な成果になるであろうと考えていた。 しかしながら、発掘調査の結果は既に述べたように、最下層でIUP期の技術的特徴をよく表す石刃核を複数検出するとともに、IUP期の後半から終末にかけての年代値が得られたため、早くも初年度に目標とするIUP期石器群を獲得することが出来たのである。石器製作技術と放射性炭素年代の両方から、IUP期を示すデータを把握したという点で、2019年度の本研究課題の調査研究は、当初の計画以上に進展したと評価することが出来る。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、研究計画にしたがって予定通りチョーカン・バリハノフ遺跡のさらなる下層の発掘調査を実施する。また今年度採取した炭化物試料について放射性炭素年代測定分析をさらに点数を増やして、確実な年代データを増やしていく。さらに昨年度実施できなかったOSL年代分析を実施して確定値を得て、放射性炭素年代値と比較することにより、本遺跡の最下層の年代を確定していく。また、遺跡の堆積構造を解明するために、昨年度採取したサンプルを用いて、土壌微細形態分析を実施する。これにより、第8・9文化層が堆積した当時の地形や周辺環境を解明していく。 チョーカン・バリハノフ遺跡の最下層の石器資料を整理して、カザフスタン南部におけるIUP期の石器組成を明らかにするとともに、石刃生産を中心として石器製作技術を詳細に解明する。新しく明らかにしたこの地域のIUP期の様相を、同時期の石器群が知られているレバントとロシアアルタイ地域との間で、主に石器製作技術の観点から比較を行い、中央アジア西部における後期旧石器時代の開始についての仮説を構築する。
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