研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04532
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷川 智之 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90633537)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多光子顕微鏡 / 転位 / 半導体 / 三次元イメージング / フォトルミネッセンス / 窒化ガリウム / シリコンカーバイド |
研究実績の概要 |
初年度は,多光子励起フォトルミネッセンス(MPPL)法を用いてGaNおよびSiCの結晶欠陥の観察技術と分類手法の開発を行った. GaN結晶に存在する欠陥は,貫通螺旋転位,貫通刃状転位,貫通混合転位である.これらを観察するためにバンド端発光の発光イメージングを行った.励起光強度をアブレーションが発生する強度より小さくすることで試料を破壊することなくMPPLマップを測定することができた.マッピング像において,全ての貫通転位は暗線として観察された.また,深い準位からの発光に起因するイエロールミネッセンスのMPPLマップも測定し観察像を比較したところ,イエロールミネッセンス像においても暗線が観察されたが,コントラストは弱く,バンド端発光のイメージングが適していることが分かった.観察像を転位種により分類するために,暗線の統計分類を行った.まず,観察像を眺めると,転位の伝搬方向がいくつかの特徴を有することが分かった.そこで,暗線の伝搬方向を極座標表示し,ヒストグラムを作成したところ,ほとんどの暗線はc軸方向にほぼ平行に伝搬したものの,いくつかの転位はc軸から10°程度傾斜することが分かった.この傾斜した暗線の種類をエッチピット法により調べたところ,混合転位に対応することが分かった.また,暗線のコントラストを評価すると,特定の暗線のコントラストが強かった.この暗線は,螺旋転位に対応することが分かった.それ以外の転位は刃状転位に対応する.このように,MPPL法で観察された暗線から螺旋・混合・刃状転位を分類できることが分かった. SiC結晶に存在する欠陥は,貫通螺旋転位,貫通刃状転位,基底面転位,積層欠陥である.これらを観察するために,バンド端発光と第二高調波発生と赤外発光のイメージングを行ったところ,検出波長によってそれぞれの欠陥を観察できることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では,初年度にGaNの転位観察手法と分類方法の確立を目的としていたが,これらは全て達成できた.さらに,多光子励起フォトルミネッセンス法で観察された暗線の方位やコントラストを解析し統計分類することにより,螺旋・刃状・混合の成分だけでなく,伝搬方向から混合転位をバーガースベクトルごとに分類できる可能性が見いだされた.これは,多光子励起フォトルミネッセンス法の用いた転位解析により転位を高精度に分類できることを示唆しており,今後の計画で実施予定の転位間の反応を調べるときにモデルを立てやすくなる. SiCについても,励起強度や観察波長を適切に選定することで,貫通転位・基底面転位・積層欠陥を観察できることが分かった.転位はバンド端発光イメージングにおいて暗線として観察でき,積層欠陥は第二高調波を含む緑色領域の発光イメージングにおいて明面として観察できた.これらのイメージング結果を重ねることで,基底面転位から貫通転位が新たに発生する様子や,基底面転位から積層欠陥が増殖する様子を捉えることができた.複数の材料で欠陥のイメージングができたことは,本手法の汎用性を示しており,Ga2O3やダイヤモンドなどの様々な新規材料の欠陥観察技術への発展を期待することができる. 以上の成果が初年度に得られたことから,当初の計画以上に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
光子励起フォトルミネッセンス法による転位観察技術及び分類技術を基に,転位同士が反応する様子を観察し,反応機構や増殖機構を調べる。これまでの実験によって,GaNにおいては,成長膜厚の増大に伴い転位同士が反応し転位密度が減少する様子や,貫通転位からフランクリード源に類似した形状の基底面転位が発生する様子や,ヘリカル転位が観察されている.SiCにおいては,基底面転位から貫通転位に変換する様子や,基底面転位から積層欠陥が発生する様子が観察されている.このような欠陥の運動を明らかにすることで,欠陥密度を能動的に低減する方法の新提案が可能と期待できる. 具体的には以下の手順で研究を実施する.まず,転位などの欠陥について,反応前後の孤立状態の転位種をバーガースベクトル成分まで分類する.次に,隣接した転位同士が近づいたときの運動について,統計的に解析し,転位同士が反応するときのバーガースベクトルの組み合わせを調べる.また,欠陥の増殖が起きる事例についても収集する。最終的には、本研究で得られた分類方法と反応機構を基に、サブミクロン~サブミリのマルチスケールにおける転位の運動機構についてモデルを構築する。
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