研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04533
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
大音 隆男 山形大学, 大学院理工学研究科, 助教 (20749931)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズモニック結晶 / ナノコラム / ナノワイヤ / 窒化物半導体 / メタ表面 / InGaN / 表面プラズモン / フォトニック結晶 |
研究実績の概要 |
① ハニカム・カゴメ格子ナノコラムプラズモニック結晶の発光増強メカニズム 窒化物半導体InGaNからの赤色発光の高効率化を達成するために,特異格子配列ナノコラム構造に着目した.以前の研究から,表面プラズモンの共鳴波長で発光増強が顕著に起こることを明らかにしていたので,格子定数が長いハニカム・カゴメ格子ナノコラムプラズモニック結晶の特性を検討した.ハニカム・カゴメ格子ナノコラムプラズモニック結晶においても表面プラズモン共鳴波長は定在波の波長によって決まり,いずれも従来の三角格子よりも長波化できることを電磁界(FDTD)シミュレーションによって示した.実際に,ハニカム・カゴメ格子InGaN/GaNナノコラムプラズモニック結晶を作製したところ,最大7倍という三角格子よりも高い赤色発光増強を達成した.また,FDTDシミュレーションを用いてプラズモニック結晶導入前後で光取り出し効率を算出した結果,金属の反射だけでなく,プラズモニック結晶のバンド端付近で指向性が向上して,光取り出し効率が増大していることが示唆された. ② 角度分解顕微PL測定系の構築とフォトニックバンド構造評価 光/表面プラズモンの分散関係はバンド構造に従って決定されるため,GaNテンプレート上に作製されたナノコラムパターンのバンド構造を実験的に効率よく評価することが重要であると考えた.そこで,長作動対物レンズとナノコラム試料間にプリズム接合光ファイバーを挿入して,ある特定の角度に放射された発光をプリズムによって光ファイバーに結合するようなPL測定系を設計した.なお,試料ステージを傾けることで,光ファイバーによって励起光が遮られないように工夫した.実際に,ほぼ同一のナノコラムで形成されたハニカム格子と三角格子のフォトニックバンドを比較測定し,格子配列によるバンドエンジニアリングを実証した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究は,以下の理由に示すように,申請書に記した研究計画がおおむね順調に進展していると評価した. ① ナノコラムプラズモニック結晶において,従来の三角格子とは異なったハニカム・カゴメ格子を導入した.これら特異格子配列の表面プラズモン共鳴波長はいずれも三角格子よりも長波化でき,表面プラズモンの強い電界強度は定在波モードによるものと明らかにした.実際に,ハニカム・カゴメ格子InGaN/GaNナノコラムプラズモニック結晶を作製したところ,最大7倍程度という三角格子よりも高い赤色発光増強を達成した.また,プラズモニック結晶のバンド端付近で指向性が向上して光取り出し効率が増大していることを示唆する結果が得られた.以上のように,発光効率の向上が課題となっている赤色領域において発光効率増大に寄与できる技術を開拓して,そのメカニズムを明らかにするだけでなく,放射角制御といった新たな光機能性も得られつつあることから,本研究は順調に進展していると考えている. ② 角度分解顕微PL測定系を構築することで,ナノコラムパターンのバンド構造を実験的に効率よく評価できるようになった.具体的には,長作動対物レンズとナノコラム試料間にプリズム接合光ファイバーを挿入して特定の角度に放射された発光をプリズムによって光ファイバーに結合し,光ファイバーを回転することで角度分解測定を可能にした.実際に,ほぼ同一のナノコラムで形成されたハニカム格子と三角格子のナノコラムアレイにおいてフォトニックバンドの測定に成功し,格子配列によるバンドエンジニアリングを実証した.本手法はプラズモニックバンドの測定にも使用することができるため,本研究でも重要な位置づけであるフォトニック/プラズモニックバンドの相互作用を理解するための汎用的なツールの作製が完了し,今後の研究の進展が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
上述した現在までの進捗状況を踏まえ,今後の研究展開については以下のように考えている. ① ハニカム・カゴメ格子を導入することで,InGaNにおいて最大7倍程度の赤色発光増強を達成したが,更なる高効率化を目指すとともに再現性良く発光増強特性が得られるような工夫をしていきたい.そのためにまずはプラズモニックメタ表面のプロセスの再現性を上げて最適化を図りたい.表面プラズモン結合を効果的に起こすためには,発光層と金属/半導体界面の距離の制御が非常に重要であり,発光増強が顕著に起こるように膜厚の最適化を行いたい. ② 今までの研究において,規則配列InGaN/GaNナノコラムプラズモニック結晶においてはフォトニック結晶とプラズモニック結晶の結合系となり,光と表面プラズモンのバンドが重なれば相互作用が起こり,発光増強率が他の状態よりも増大することを明らかにした.この現象を活用して出射方向の制御を目指す.また,構造の異方性を導入することで偏光制御を行いたい.三角格子配列は6回の回転対称性を持っているが,敢えてこの対称性を崩すことで面内の偏光を定めたり,鏡映対称性がないキラル異方性を導入して円偏光を持った発光素子を開拓する. ③ 作製した角度分解顕微PL系を用いて,プラズモニックメタ表面のバンド構造評価を行い,計算結果と比較検討を行う.また,FDTDシミュレーションを用いて,金属/誘電体界面に生じる表面プラズモン起因の電界強度の波長依存性を評価し,実験結果と比較を行い,計算の妥当性を評価するとともにその補正を行いたい.特に,フォトニック/プラズモニックバンドが交わる状態において,発光増強率,光学寿命,偏光度などの結果がどのように変化するかを定量的に検討し,バンド結合に関する効果を実証する.
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