チエノイソインジゴ骨格はキノイド構造の寄与が大きく、近赤外光吸収特性を示す有用な骨格である。本年度はチエノイソインジゴ骨格を用いて、キノイド化したチエノイソインジゴ骨格の合成を試みた。ベンゼン環及びチオフェン環のグリニャール試薬を用いて、チエノイサチンの2量体への付加、還元反応を経由して、標的であるキノイド型チエノイソインジゴ骨格の合成に成功した。また単結晶構造解析を行い、結合交代や電子構造を詳細に調べキノイド構造の形成を明らかにした。またこのキノイド型チエノイソインジゴ骨格をベースに、ジケトピロロピロール骨格及びチエノイソインジゴ骨格との共重合ポリマーの合成に成功した。これらのポリマーは、狭いエネルギーギャップを持ち近赤外光吸収特性を示す。特にチエノイソインジゴをベースにしたポリマーは、電界効果トランジスタにおいてゲート電圧を印可することなく、比較的高い電気伝導性(10-3 S/cm)を示した。これはキノイド構造導入により、フロンティア軌道がポリマー鎖内での非局在化に起因することを明らかにした。 現在の有機エレクトロニクスはバイオメディカル分野への応用研究が積極的に行われている。世界の研究の方向性を踏まえ、共役系を水素結合形成可能な側鎖で切断したモノマー(CBユニット)を、ポリマー主鎖中の特異構造と捉えて、この特異構造部位に収縮性を持たせる分子設計を行い新規ポリマーの合成に成功した。特に水素結合の強さとポリマー薄膜における応力緩和機構を調べた。その結果ユリア結合の導入が、応力緩和に効果的であることを見出した。さらに合成したポリマーはフルストレッチのトランジスタを作成したところ、伸縮に対して優れた移動度(10-1 cm2/vs)を示した。
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