本研究では、単原子層化合物半導体表面に特異構造(格子歪み・格子欠陥)を局所的に(ナノスケールで)導入し、その特異構造に起因する光物性変化を”その場”ナノ分光計測することによって、単原子層物質表面の特異構造と光・電子物性との相関をナノ分光学的に解明することを目的とした。令和元年度に引き続き、近接場発光分光装置の開発として、安定性向上などの要素技術開発を行った。具体的には、金属ナノ探針位置の熱ドリフトを検知および補正する機構を新規開発し、長時間のナノ分光計測が可能な仕様とした。さらに、カバーガラス上に作製した原子層物質表面への有機分子ドーピングを行った。具体的には、気相中で液晶分子を原子表面へ吸着させて近接場発光およびラマン散乱分光測定を行った。その結果、液晶分子の吸着前後において、発光スペクトルの波長と強度が変化することを見出した。同時に測定した近接場ラマンスペクトルの解析を行ったところ、液晶分子が原子層物質表面で自己組織化的に配列し、それにともなって吸着分子と原子層表面間での電荷移動が誘起されたため、発光スペクトルに変化が生じたことがわかった。とくに、液晶分子の吸着状態によって発光スペクトルの変化が異なることがわかった。これにより、分子ドーピングによって原子表面上での特異構造を局所的にナノスケールで制御できることが示された。それ以外にも、金属探針先端で電圧を印加することによっても特異構造を局所的に誘起できることをナノ分光学的に示した。
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