研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04543
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片山 竜二 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40343115)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / エピタキシャル成長 / 非線形光学 / 第二高調波発生 / 光パラメトリック下方変換 |
研究実績の概要 |
本研究では、窒化物半導体の「極性反転」という特異構造の形成技術の深化とその物性・機能の制御、ならびにこれを利用した波長変換による新規光源の開発を目的とする。深紫外帯域で発光するAlGaNは導電性制御が本質的に困難であり、高効率レーザは実現されておらず、単なる電流注入とは原理の異なる深紫外光の発生方法の開発が急務である。かたや情報分野においては、光を用いた量子計算機が提案されているが、依然として系が巨大で調整困難なうえ安定性が乏しく、量子光源の小型化が求められる。上記背景を踏まえ本研究ではこの特異構造の更なる理解、制御技術の確立と積極活用を進め、青色レーザ励起による深紫外第二高調波発生と量子もつれ光子対発生を実証する。これにより結晶工学的な学術的知見の掘り下げや新規素子提案に加え、半導体微細加工・医療分野への応用や室温動作・高安定な光導波路型量子計算機の実用化などの各分野への貢献を目指すことを目的とする。 これらの目的のもと、下記の進捗状況に記すように、2019年度の実施計画であった一つ目の項目である極性反転構造形成技術の深化としては、高品質窒化物薄膜成長と表面活性化ウエハ接合条件の最適化を実施し、二つ目の項目である極性反転GaNの非線形光学特性評価としては、エピタキシャルに極性反転させたGaN積層構造をベースにチャネル導波路の形成と、青紫色帯域のSHGの実証の成功などの成果が得られており、おおむね順調に進展しているといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極性反転構造形成技術の深化 ・薄膜結晶成長 AlNはスパッタアニール装置及び有機金属気相成長装置、GaNは有機金属気相成長装置を用い成膜し、サブμm膜厚でもウエハ接合に適した表面平坦な±c面両方位を成膜できた。 ・表面活性化ウエハ接合 前回の公募研究で確立した表面活性化ウエハ接合による(Al,Ga)N薄膜転写技術をもとに、本研究期間ではこれを発展させ、接合条件の更なる最適化を行い、収率向上を目指した。AlNについてはウエハ接合及びスパッタリング条件の変調により、深紫外域SHGが可能な二層及び三層極性反転チャネル導波路の作製に成功した。またGaNについては波長変換を司るOPDC素子と、電界駆動型の分波・位相変調素子の集積を想定し、上下に導電性クラッド層を装荷した二層極性反転p-i-n積層構造が必要となるが、有機金属気相成長と極性反転層の挿入により、このうちアンドープGaNの極性反転構造のエピタキシャルな形成に成功した。 極性反転GaNの非線形光学特性評価 ・第二高調波発生(SHG) 本研究では光波伝搬方向に沿って周期極性反転する従来型の疑似位相整合ではなく、代表者が提案した積層方向に極性反転する横型構造を用いた。エピタキシャルに形成した極性反転GaN積層構造を電子線描画並びにドライエッチングによりチャネル導波路状に加工し、モード同期チタンサファイアレーザの基本波として用いて、青紫色帯域のSHGの実証に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
極性反転構造の物性・機能制御 まず高分解能TEM観察、エネルギ分散型X線分光、X線光電子分光により評価し、表面処理や活性化接合条件により、収率を支配する接合強度、サブギャップ吸収、接合界面の導電を制御する。また結晶の線形・非線形光学定数は、自発分極成分に加え、歪に起因したピエゾ分極と外部印加電界、それらを遮蔽する残留キャリア濃度に強く影響を受ける。顕微ラマン散乱を用いて残留歪とキャリア濃度、顕微電場変調分光法により内蔵電場を直接評価し物性・機能を支配する要素を切り分ける。続いて上記パラメタを意図的に変化させた試料を作製し、精密評価する。また電界印加屈折率変調型位相変調機能実装と電場誘起二次非線形光学効果増強を狙い、物性・機能の能動制御を試みる。 極性反転AlNの非線形光学特性評価 まずGaNと同様に結晶方位が交互反転した極性反転導波路を形成し、モード同期チタンサファイアレーザの倍波を用いて、深紫外SHGを実証する。続いて、同様にGaN極性反転試料を作製し、逆過程であるOPDCの実証を試みる。ポンプ光には外部共振器型405 nm帯波長可変InGaNレーザを用い、ポストセレクション型偏光量子相関測定系を構築する。タイプⅡ波長変換試料を用い、HongOu Mandel干渉と偏光量子もつれの測定を行う。加えてタイプ0波長変換試料を用い、CWチタンサファイアレーザを局部発振光、倍波をポンプ光として用い試料を励起する。発生光をビームスプリッタで局部発振光と干渉させ、バランスド検出器でホモダイン検出し、スクイーズド光発生を実証する。
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