研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04545
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小林 慶裕 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393739)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グラフェン / 乱層構造 / 酸化グラフェン / 超高温プロセス / 欠陥修復 / キャリア輸送特性 |
研究実績の概要 |
本研究では、積層方向の周期性が乱れた乱層構造をもつ多層グラフェンを合成し、そこから単層グラフェンに類似した優れた物性を引き出すことを目的とする。バルクスケールでの物性計測を可能とするため、自立して超高温処理が可能な高空隙グラフェン積層体を大量合成可能な酸化グラフェン(GO)から作製した。作製には、これまで研究を進めてきた高空隙スポンジ状GOに加えて、層間相互作用を制御したGO堆積膜の2つのアプローチで取り組んだ。層間制御のために様々な径・長さをもつセルロースナノファイバ、カーボンナノファイバ、ナノダイヤモンドをスペーサ材料として用いた。スポンジ状GOでの課題であった構造均一性向上のためにGO・スペーサ間の相互作用を分散液のpHや表面官能基の種類で制御することを試みた。その結果、相互作用が弱まるpH=5程度の弱酸性の条件において均一性や単層性が著しく向上することを見出した。より緻密な自立積層膜を濾過法で作製し、スペーサ材料による単層性の向上効果をラマン分光法で検証した。その結果、特にナノダイヤモンドを用いた場合に膜内部まで均一に単層性が向上することを明らかにした。今後、キャリア・熱輸送特性の解析など薄膜物性計測へと展開する。キャリア輸送など電子物性解析に適した絶縁物基板上の薄膜試料として、グラフェンテンプレート上にCVD法で低欠陥・乱層構造グラフェン薄膜を作製した。昨年度から成長条件を最適化することにより、欠陥密度の低減やドメイン領域の拡大を達成した。得られた数層グラフェン試料でのキャリア輸送特性の層数・測定温度依存性を解析し、単層に類似した輸送特性や基板からの環境効果のスクリーニング効果をディラック点付近での伝導度や移動度解析から明らかにした。これは高性能チャネル材料としての乱層グラフェンの優位性を示しており、今後量子輸送計測へと展開する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書では、(1)3次元自立乱層ナノ炭素積層体作製法の開発、(2)テンプレート上成長による乱層グラフェン薄膜形成と構造解析、および(3)乱層グラフェン構造における物性解析の3項目を今年度に実施するとしていた。(1)について、計画通りに酸化グラフェン(GO)を原材料としてスポンジ状GO及び濾過法によるGO堆積膜を作製し、カーボンナノファイバやナノダイヤモンドをスペーサとした層間制御を検証した結果、ナノダイヤモンドによる高い構造制御性を明らかにできた。(2)について、キャリア輸送特性解析に必要な絶縁物基板上の薄膜試料作製のため、これまで行ってきたテンプレートグラフェン上乱層グラフェン成長法、すなわち酸化物上での上限温度(~1300℃)における化学気相成長法の条件を再検討した。その結果、キャリア輸送特性の向上に有効なドメインサイズの拡大、平坦性向上、欠陥密度低減を実現することができた。得られた試料からはこれまでよりも安定してキャリア輸送特性を計測でき、その層数・測定温度依存性の解析から本研究のねらいである単層に類似した物性の観測に加えて、グラフェン自身のスクリーニング効果による特性向上という新たな方向性を創出した。ここで示された乱層グラフェンの優位性を活かして、今後はより高度な試料を必要とする量子輸送計測への発展が期待できる。以上のように、予定の項目を概ね達成し、来年度以降への研究への足がかりを得ており、おおむね順調に進捗していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの乱層グラフェン形成に関する研究成果を踏まえ、本研究の主眼である単層グラフェンに類似した物性の実証に重点をおき、スケーラブルな応用展開に向けた基盤技術の構築を目指す。乱層グラフェンとして実際の応用に向けたバルクスケールの3次元自立構造と精密な物性解析に適した厚さがnmスケールのテンプレート上成長薄膜の両面から電気・熱伝導・光透過特性など多角的な物性解析に取り組む。具体的には以下の研究項目について推進する。 1.3次元自立乱層ナノ炭素積層体作製方法の最適化:大量合成可能な酸化グラフェン(GO)を原材料とした自立・高空隙グラフェン積層体作製方法を深化させ、物性解析に重要となる均一性・単層性の向上や低欠陥化を進める。積層体としては高空隙スポンジ状GO及び層間制御GO堆積膜の2つのアプローチで取り組む。乱層構造を維持しつつ、欠陥密度をさらに低減させるため、エッチング効果の制御性向上を目指して二酸化炭素添加も試みる。 2.テンプレート上成長による乱層グラフェン薄膜形成と構造解析:キャリア輸送特性などの物性解析に必要となる絶縁物基板上の薄膜試料作製のため、酸化物上での上限温度(~1300℃)におけるテンプレートグラフェン上乱層グラフェン成長のプロセス最適化を引き続き進める。エッチング成分添加により平衡に近い条件で成長し、低欠陥化と核形成頻度減少によるドメインサイズ拡大を目指す。 3.乱層グラフェン構造における物性解析 項目1・2で得られた乱層グラフェンについて、引き続きバルクスケール・ナノスケールでの多角的な物性解析を進める。キャリア輸送や電気化学電極特性の解析に加え、乱層積層グラフェンの光物性計測へと展開し、フェルミ準位近傍での線形分散を活かした広帯域光吸収材料への応用可能性を探索する。
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