研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04547
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研究機関 | 和歌山大学 |
研究代表者 |
小田 将人 和歌山大学, システム工学部, 講師 (70452539)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 特異構造 / 第一原理計算 / GaN / 電子格子相互作用 |
研究実績の概要 |
窒化物半導体を用いた発光デバイスにおいて,非発光領域の成長によって発光効率が低下する現象が問題となっている.発光効率低下によるデバイスの劣化を抑え,素子寿命を担保するためには非発光領域成長機構の解明が不可欠である.非発光領域は点欠陥が欠陥反応により集合することで成長すると考えられているが,欠陥反応の機構は現在までほとんど未解明である.本研究では最も基本的な特異構造である欠陥を対象に,そこでの電子系とフォノン系の間のエネルギー転換機構の理論的解明を行う. 当年度は,これまで明らかにしてきたVGa からNGa-VN 複合欠陥への反応について反応時定数の算出を行なった.先行研究の一般的なモデルでは,中性・荷電状態に対して同一の振動数を仮定する単純なものであったため,モデルを拡張し,注目する欠陥反応が具体的にどの程度の時間で起こりうるかを調べた. 欠陥反応は,VGaの周囲にあるダングリングボンドを持つN原子の振動が電子格子相互作用により増幅されることから始まる.増幅された振動の振幅がエネルギーバリアを超えると,N原子は隣接するGa欠陥サイトに移動しもとのN原子サイトが空孔になるという新たな複合欠陥(NGa-VN)が生成される.この反応をN原子の単一振動子とみなし,その中性・荷電状態での角振動数,および反応バリアを第一原理電子状態計算の結果から得た値として,拡張したモデルを用いて欠陥反応シミュレーションを行なった. その結果,上記欠陥反応は,最も早い場合59 ns で起こることを明らかにした. 成果をまとめ,原著論文を関連する化合物半導体に関する物を含め2報発表した.また,学会発表として,国際会議での発表5件,国内学会での発表1件をおこなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究をふまえ,大きな欠陥を含むモデルに拡張した計算を行う予定であったが,利用予定の大型計算機が更新のために利用停止になったため当初計画していた通りに研究推進することが難しくなってしまった.振動解析の手法を局所的に限定することで研究室にある計算機を活用して推進しているものの,大型計算機とは性能に大きな差があるため,やや遅れている状況である.
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今後の研究の推進方策 |
当年度の成果から,VGaがNGa-VNへ構造変化するという欠陥反応のミクロなダイナミクスが明らかになったが,この反応あるいはその逆反応だけでは点欠陥の集合につながるとは考えにくい.より多彩な欠陥反応が起こりうる系に注目し,同様の欠陥反応解析を行う必要がある.GaN中で非発光中心として有力な候補であるVGa-VN複合欠陥,および5-7刃状転位に注目し,同様の解析を行うための準備計算として,まず静的な電子状態計算を行なった.今後は,VGa-VN複合欠陥と5-7刃状転位に対して,増強されうる孤立振動モードが存在するか否かを検討する.並行して,欠陥シミュレーションモデルを,単一振動子から,より一般的な格子振動を扱えるものへと拡張していく.シミュレーションのために必要となる情報は,第一原理計算の結果を用いるが,大きな欠陥を含むモデルは,原子数が大きくなるためこれまで行ってきた全原子に対する振動解析計算をするのは計算時間が膨大になってしまう.そこで,注目する欠陥付近のみに注目した局所振動解析という手法を採用する予定であるが,準備計算として,どの原子まで考慮するかの確認を行わなくてはいけない. 確認を行ったのち,中性・荷電状態についての振動解析を行っていく予定である.
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