研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04549
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
岡田 成仁 山口大学, 大学院創成科学研究科, 准教授 (70510684)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 窒化物半導体 / 超格子 / Vピット / LED |
研究実績の概要 |
GaN系InGaN系発光ダイオード(LED)の効率が非常に高いことは様々な要素技術が合わさっている。これら要素技術において、LED中の転位は発光層直下のInGaN/GaN超格子に起因したVピット形状の構造を活性層内に創成し、LEDの高効率化のメカニズムの要因となっている。しかしながら、高効率化にはVピットを形成するとき超格子構造が必要であり、超格子はその構造がもたらす複合的な有利効果があり、それぞれの効果を個別には評価し切れていないのが現状である。本研究では、超格子の構造的要因か純粋なVピット構造かを別々に評価し、それぞれの要素がどのように高効率化に作用するかを個別に分類することを目的とし、最終的に高効率LEDのメカニズムを解明することである。 上記目的を達成するために、超格子構造で発生するVピットの影響を明確にするために、InGaN/GaN超格子があるサンプルと無いサンプルを用意し、単一量子井戸(SQW)または多重量子井戸(MQW)を成長させることにより、非常に薄膜なInGaNが発光に与える影響に着目した研究を行ったので報告する。 各サンプル上に720 ℃から820 ℃に温度を振ったSQW、MQWを成長させ、フォトルミネッセンス(PL)測定により評価した。その結果、超格子のないサンプルにおいてもSQWの成長温度が790 ℃から810 ℃において発光強度が顕著に回復した。InGaNが非常に薄膜でありながらこのような挙動を示したのは、InGaNの最表面状態やInGaNの膜質が発光特性に大きな影響を与えることを示している。 今後は、各サンプルのVピットの大きさを詳細に調べて、Vピット形状とInGaNの膜質が発光特性に与える影響を深く調査し、本研究の目的である「LEDの高効率化における要素技術の個別に分類」を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、InGaN/GaN超格子(SL)の“構造的要因”か純粋な“Vピット構造”かを別々に評価し、それぞれの要素がどのように高効率化に作用するかを個別に分類することを目的とし、高効率LEDのメカニズムを解明することである。最終的にLEDの効率を上げるためにどのようなLED構造にするべきか、成長条件を選ぶべきかなどを明確にし、今後の新たなLEDデバイス、特に今後の発展が期待されている紫外線領域、長波長領域(赤色領域~赤外線)のLEDへ応用を目的にしている。 2019年度の研究においてInGaN/GaN SLを有するサンプル、無いサンプルを用いて、単一量子井戸(SQW)、多重量子井戸(MQW)を成長しフォトルミネッセンス(PL)による光学特性を調査した。その結果、SQWのようなInGaNが非常に薄膜でありながら非常に高輝度のPL発光を示す波長領域と全く光らない波長領域が存在することが明らかとなった。そして、その領域はIn組成が0~10%程度であることが分かった。さらに、MQWにおいてもその組成領域に大きな変化はないことが明らかとなり、SLを存在の重要性が明らかとなった。このような挙動を示したのは、InGaNの最表面状態やInGaNの膜質が発光特性に大きな影響を与えることを示している。つまり、発光特性において最も重要なことはGaN下地層とInGaNの組成、膜質、膜厚を含む成膜条件であることが示され、研究課題の再設定をすることができた。 以上のことより、研究課題は概ね順調に進展しており、今後の課題設定もできている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究においてInGaN/GaN超格子(SL)を有するサンプル、無いサンプルを用いて、単一量子井戸(SQW)、多重量子井戸(MQW)を成長しPLによる光学特性を調査した。SQWのようなInGaNが非常に薄膜でありながら高輝度発光する結果は、InGaNの最表面状態やInGaNの膜質が発光特性に大きな影響を与えることを示している。一方、本研究結果は、高効率化に作用するかを個別に分類において、重要な知見を示しており、Vピットと発光波長の関連性も含めて考えないといけないことが明らかとなった。 つまり、Vピットを含むSLが非常に有効であるとされてきた結果が、発光波長領域によって効果的に働く場合とそうでない場合が存在することを意味している。今後の研究の方針に発光波長ごとのLEDにおいて要素技術が与える影響の割合を変えなければならないことを示している。 2020年度は従来の研究計画に大きな変更はないが、発光波長ごとに各要素技術がLEDの高効率化に及ぼす影響が異なることを考慮し、研究課題を進めていく予定である。
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