有機分子が単結合周りの回転自由度を持つことに着目し、結晶中で分子配置の乱れを導入する分子設計を行った。分子配置の乱れは分子間磁気相互作用に乱れを生じさせ、磁気格子に特異構造を出現させた。単結晶X線構造解析による占有率の決定から、分子配置における乱れを評価した。実験的に決定した原子座標値を用いて分子軌道計算を行い、磁気相互作用における乱れの評価を行った。低温磁場中における磁化および比熱測定を詳細に行い、その量子磁気状態を明らかにした。特異構造が磁気状態にどのように反映されるか考察した。代表的な成果を以下に記す。 (1)有機ビラジカルを用いて一連のS=1/2二次元ハニカム格子を合成した。水素原子をフッ素原子に置換することで、分子平面の二面角を制御し、分子内磁気相互作用を変調することに成功した。分子構造の僅かな変化が、分子間積層様式を変化させることを明らかにした。低温磁場中磁気測定から、磁気状態を明かにし、分子軌道計算と数値計算を用いて定量的評価を行った。分子骨格を非対称化した物質合成を行い、結晶中の分子配置に乱れを生じさせた。低温磁場中において発現する特異な磁気状態を、等温磁化曲線から観測した。非対称性に起因する特異構造と、磁気相互作用に生じる乱れの効果、磁気状態との相関を考察した。 (2)有機モノラジカルをZn2+に配位させた錯体において、S=1/2二次元ハニカム格子を合成した。非対称有機ラジカル分子の配位は異性体を生じ、その混晶結晶の分子配置の乱れによる特異構造は、量子スピン液体状態の発現に重要な役割を果たしていると考えられる。対称性分子を用いた場合の磁気状態、次近接相互作用の変化を調べ、非対称分子を用いた場合と比較した。 (3)温度低下に伴う対称性の低下と構造相転移を示す有機ラジカル結晶について、結晶に依存する磁性を、特異構造の観点から考察した。
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