研究領域 | 特異構造の結晶科学:完全性と不完全性の協奏で拓く新機能エレクトロニクス |
研究課題/領域番号 |
19H04553
|
研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
山口 敦史 金沢工業大学, 工学部, 教授 (60449428)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 窒化物半導体 / 光物性 |
研究実績の概要 |
窒化物混晶半導体には、組成揺らぎなどの周期性を乱す要因(特異構造)が混在しており、その物性が完全には解明されていない。これを解明するには、まず材料の物性を様々な側面から実験的に調べ、それらの結果のすべてを説明するための理論モデルの構築が必要である。本研究では、(1)「非輻射再結合の直接観察」がこの物性解明の突破口になり得ると考え、この実験から内部量子効率(IQE)、輻射・非輻射再結合寿命を正確に求めるなどの研究を進めている。 また、(2)結晶の周期性の乱れから生じるバンド裾状態、局在状態を様々な光学手法で測定し、物性を理解するための情報を得る。 さらに、それらの結果を説明する理論モデルを構築することを目指している。 (1)では、「非輻射再結合の直接観察」を行う光音響測定において、InGaN量子井戸(QW)のような超薄膜からの微弱信号も測定できるようなノイズ除去を実現し、各種試料での測定を行った。そして、GaN基板上QWとサファイア基板上QWとで明らかにIQEが異なることや、それがPL強度とは必ずし比例しない(PL強度は表面の凹凸の影響を受ける)ことなどを示した。また、積分球を用いて外部量子効率(EQE)を測り、それとIQEとの相関から、光取出効率が求められることも示した。さらに、試料としてエピ膜だけでなく、LEDチップの活性層の測定にも成功している。 (2)では、波動関数の広がりに関係するキャリアのmobility edge(ME)を決定する方法について検討した。従来よりMEを光学的に測定する方法は複数提案さえているが、今回我々が同じInGaN-QW試料に対して、MEを調べたところ結果は一致しなかった。そこで、それらの測定の状況を理論モデルで再現し、PLEスペクトルを用いるME決定法が最も妥当であることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な試料でのInGaN-QWでのIQE測定は、光音響信号の強度が低いために、困難が予想されたが、ノイズの除去が期待以上にうまく行き、再現性の高いデータが取れるようになった。このため、我々が提案する「PA/PL同時測定」によるIQE測定がどの程度正しいのか、確認の実験ができつつあり、今後も順調に成果が出てくる期待ができる。 一方、状態密度やキャリアダイナミクスについては、従来から提唱している理論モデルでは合わない実験結果が発見され、ここを解決しなけばならないが、新しい理論モデルにより、解決できそうな感触が得られており、今後の期待ができる。 こうしたことから、これまでの成果と今後につながることを総合して、研究は順調に進展していると判断する。
|
今後の研究の推進方策 |
PA/PL法によるIQE測定に関しては、その正確性を担保するため、理論的なシミュレーションにより、「基板による再吸収」「QWによる再吸収」「キャリア拡散」などの効果がIQE測定に対してどのような影響を与えるか検討するとともに、問題となる場合には、その効果を除去する手法を理論と実験から考えていくつもりである。 一方、状態密度とキャリアダイナミクスの理論モデル構築については、これまでに大前提としてきた「フェルミ準位が空間的に均一」というモデルでは合わない実験結果が出てきているので、フェルミ準位が空間的に不均一になる効果を取り入れる手法を考えてモデルに取り入れていく予定である。
|