多様な特異構造を含む窒化物半導体においては、そのキャリアダイナミクスを理解する上で、輻射再結合と非輻射再結合の2つの過程の各々のメカニズムを明らかにすることが重要となります。本研究では、同一の光励起条件下で、この2つの過程を同時計測する光音響・発光同時計測法を用い、特異構造内での内部量子効率を正確に求めることがキャリアダイナミクスの解明につながると考え、InGaN量子井戸の各種試料において、光音響・発光同時計測による内部量子効率の正確な測定の確立を試みました。その結果、(1)市販のLEDの活性層のInGaN量子井戸では非常に高い内部量子効率の値が得られた、(2)GaN基板上とサファイア基板上の試料で比較するとGaN基板上の試料の方が内部量子効率が高い、(3)内部量子効率の低い試料では光励起強度の増加ともに欠陥が埋まり効率が向上してくる、などの結果が得られた。さらに、これらの結果を時間分解PL測定と組み合わせて、輻射再結合寿命と非輻射再結合寿命を分離評価することも原理的に可能となりました。 また、上記の研究と並行し、時間分解PL測定やPLE測定、光励起誘導放出光測定など様々な光学実験の結果を理論モデル計算によって説明することを試みました。その結果、混晶組成揺らぎなどによるポテンシャル揺らぎに伴い状態密度を誤算関数と設定し、そのバンド内での速度方程式を考えることにより、ほぼすべての実験結果を説明できることがわかりました。さらに、このモデルでは説明できない極低温の領域(あるいはIn組成が高い領域)ではフェルミ準位の空間的不均一性を考慮するようなモデルの拡張を行えば、実験結果を説明できることもわかりました。
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