研究実績の概要 |
有機物は無機物と異なり、安定な独立分子が結晶内で弱い分子間力のみで成り立つため、分子中の一部が欠損したような類の欠陥構造は一般に作りにくい状況にある。故に、これまで欠陥を「安定」かつ「定量的」に結晶内に取り込むことは合成的に難しいものであった。このように、確立した合成法が存在しなかったため、欠陥の存在が有機物性に与える影響はほとんど注目されて来なかっただけでなく、欠陥を完全に排除した完全結晶の電子物性のみに価値があると信じられてきた。本研究では、プロトン欠陥を水素結合ネットワーク内に埋め込むことより、化学的に安定にキャリア発生した新しいタイプの有機伝導体の電子物性及び光学特性を明らかにすることを目的とした.分子内水素結合内に1つのプロトン欠陥を有する単一成分純有機金属である拡張型テトラチアフルバレンジカルボン酸(TED)の単結晶育成を試みたところ、室温伝導度が2,300 S/cm、低温では10,000 S/cmを超える高伝導性が得られることが明らかになった.また、単結晶構造解析に成功し、伝導シートが層状に積層した構造を有し、結晶育成条件によっては層間に溶媒分子を取り込んだ包接結晶が得られることが分かった.包接溶媒の存在によって金属性が損なわれることはないものの、溶媒種によって伝導性が最大で1/20まで減少することから、溶媒のインターカレーションによって金属伝導性を制御できる新しいタイプの伝導体となることを新規に見出した.
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