研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04556
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
北川 裕一 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任講師 (90740093)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 希土類錯体 / メカノケミストリー / 化学反応 / キラリティー / 発光 |
研究実績の概要 |
不斉合成とは光学異性体の一方を選択的に化学合成することを示す。新しい不斉合成法の開拓は新しい医薬品、液晶材料の開発や生命のホモキラリティー起源解明につながるため重要視されている。本研究では“力学的な力を利用した新規な不斉合成法の構築”を目的とする。 これまで力学的な刺激を加えると高効率に発光する希土類錯体の設計・合成について研究を行ってきた。その設計に基づき(1)力学的な力により励起可能なヘキサフルオロアセチルアセトナト配位子と(2)励起状態形成により反応が容易に起こるアントラセンを二座ホスフィンオキシド配位子を組み合わせた希土類配位高分子の合成を検討した。二座ホスフィンオキシド配位子はジブロモアントラセンを原料とし、二段階反応で合成した。得られた配位子とヘキサフルオロアセチルアセトナトが配位したEu錯体をジクロロメタン中で混合させることで配位高分子を合成した。得られた配位高分子は元素分析、IR、NMRで同定し、単結晶X線構造解析を行った。この配位高分子に力学的刺激を与えると、アントラセン部位において酸化反応が起きることがESI-MSおよびNMRの解析により明らかとなった。また、刺激を与える前はアントラセン骨格がEu発光のクエンチャーとして働くためアントラセンの蛍光のみが観測されていたが、酸化反応後はアントラセンの蛍光に加え、Euに由来した単色性の強いシャープな発光帯が確認された。さらに、力学的刺激で酸化反応させた配位高分子におけるEuの発光スペクトルおよび発光寿命は光酸化した配位高分子とは異なっていた。これは本系において、力学的刺激をトリガーとした反応と光をトリガーとした反応において、その励起状態ダイナミクスが異なっていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
物質に力学的な力を加えたときにその物質が励起状態を形成し、発光する現象のことをトリボルミネッセンスという。本現象が発見されたのは約400年前であり、これまでに様々なトリボルミネッセンスを示す有機化合物・無機化合物が報告されてきた。これまで我々のグループは希土類錯体を基盤としたトリボルミネッセンスの研究を行ってきている。 本研究ではこの配位子設計に基づき、反応性が高いアントラセン骨格を導入したEu(III)配位高分子を合成し、力学的励起により酸化反応をESI-MS、NMR、分光学的な解析により評価した。その結果、力学的な刺激で形成する励起状態は「発光」だけでなく「化学反応」にも利用できることを初めて実証できた。本結果は力学的な刺激で良く発光することが報告されてきた希土類錯体の設計内に化学反応部位を入れれば容易に化学反応を起こせることを示唆している。さらに、本化合物を原料として光反応により生じる生成物と力学的刺激により生じる生成物を分光学的に解析したところ異なった生成物が生じていることを示唆しているデータも得ることができており、一年間で研究は大きく進展したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
力学的な刺激で形成する励起状態を利用して「発光」ではなく「化学反応」にも利用できることを初めて実証するところまで達成できた。次のステップとして不斉反応を行うことである。以下の二つの方針で研究を進める。 (1)キラル配位子を導入した設計:β-ジケトナト配位子はアキラルなヘキサフルオロアセチルアセトナト配位子を用いてきたが、3-(パーフルオロブチリル)-カンファラト配位子および3-(トリフルオロアセチル)-カンファラト配位子を用いる。前年度、力学的刺激に基づく酸化反応に成功しているアントラセン骨格をホスフィンオキシド部位に導入する。ホスフィンオキシド配位子内のフェニル基に置換基を導入することで立体障害を制御する。反応前後によるキラル構造についてX線構造解析を行い、キラル光物性について円偏光発光測定で評価する。 (2)キラル二量化反応:β-ジケトナト配位子はアキラルなヘキサフルオロアセチルアセトナト配位子、キラルな3-(パーフルオロブチリル)-カンファラト配位子および3-(トリフルオロアセチル)-カンファラト配位子を用いる。ホスフィンオキシド部位にアントラセン骨格を導入することは(1)と同様だが、フェニル基を立体障害の小さい置換基に変えることで、アントラセンの積層構造形成を検討する。それにより力学的刺激に基づく、アントラセンのキラル二量化反応を検討する。
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