公募研究
力学的刺激によって引き起こされる化学反応は有機溶媒を必要としないだけでなく、特異的な反応選択性を示すことも報告されており、近年注目を集めている。これまで力学的刺激によって主に「基底状態」における化学反応が報告されてきた。本研究では力学的な刺激により「励起状態」を形成する希土類錯体に着目した。この希土類錯体は八配位構造を形成し、有機配位子を密に集積させることができる。この有機配位子として反応性が高いアントラセン骨格を導入した希土類錯体を用いて、力学励起反応特性およびそれにより生じる結晶場変化について検討した。アントラセン骨格を導入したユウロピウム配位高分子の単結晶を作成した。X線構造解析の結果、この配位高分子ユニットは反転中心対称をもたない八配位スクエア・アンチプリズム構造を有していることがわかった。この結晶を力学的な刺激を与えて粉砕した。粉砕後の試料についてESI-MS測定を行ったところ、アントラセン酸化体に由来する信号が観測された。これより、力学的な刺激によってアントラセンの酸化反応が進行したことが示唆された。光照射した試料についても酸化体の生成がESI-MS測定により確認された。反応前試料の発光スペクトルにおいてアントラセンに由来するブロードな発光帯が観測された。粉砕後の試料では、ユウロピウム由来のシャープな発光帯(610nm付近)が観測された。これは、酸化によってアントラセン配位子の励起エネルギー準位がユウロピウムの発光準位より高くなるためと考えられる。また、ユウロピウムの発光スペクトル形状が粉砕試料と光照射試料で異なっており、ユウロピウムイオンに働く結晶場に違いが生じていることが分かった。それぞれの発光寿命も異なっており、力学的な刺激と光励起で異なった生成物が生じていることが明らかとなった。
令和2年度が最終年度であるため、記入しない。
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