研究実績の概要 |
本研究では、金属イオンと有機配位子を構成要素として、それらの非対称化を伴う配位駆動自己集積により超分子錯体を合成し、機能開拓を行うことを目的とした。研究代表者は前回の公募研究(2017年度~2018年度)で、等価な7つの2,2´-ビピリジル (bpy) をアミド基を介してピラノース環に導入したシクロデキストリン誘導体Lを配位子として用い、隣り合わない1,3,5番目のbpyで選択的に錯形成したキラルな単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・M] (MはZnやFe) の合成に成功した。2019年度では、この亜鉛単核錯体に存在する、金属と配位していないフリーのbpyを利用して、分子間の錯形成を試みた。亜鉛単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・Zn]はその6番目のbpyのみが外側に飛び出した構造をもつ。亜鉛単核錯体とFe(II)との錯形成の結果、3つの単核錯体の各bpy基が[Fe(bpy)3]錯体の形成によって連結された、巨大かつ非対称な構造を持つ三量体錯体を単一成分として得ることに成功した。さらに、各種2次元NMR測定や円二色性測定による解析から、3つのシクロデキストリンを連結する[Fe(bpy)3]錯体はmer-Δ体であることが示された。 また、鉄単核錯体1,3,5-fac-Λ-[L・Fe]の非対称な内孔では7つのアミド基がすべて異なる環境にある。これを活かして、内孔における水素結合によるキラル分子認識の検討を行った。鉄単核錯体と種々のアミノ酸アニオンの相互作用について検討した結果、D体/L体のうちD体を特に強く包接するという顕著な選択性が確認された。D-ロイシンアニオンを包接した錯体の溶液中における構造を、各種2次元NMR測定に基づいて解析した。その結果、包接アニオンがアミド基と多数の水素結合を形成し、位置と向きを固定されて捕捉される精密な認識様式が明らかとなった。
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