研究実績の概要 |
多数の配位部位をもつ有機配位子の金属錯形成は複雑な構造を作る強力な手段だが、等価な配位部位のうちいずれかのみ複数を選択的に錯形成するのは通常困難である。一方、我々はこれまで、多数のアミド基を導入したシクロデキストリン誘導体とその分子認識について報告している。本年度の研究では、6、7、8つの等価なピピリジル(bpy)アミド基をもつα, β, γ-シクロデキストリン誘導体の配位子をそれぞれ設計・合成した。各配位子と、鉄(II)イオンなどの正八面体型六配位をもつ金属イオンを1:1の比で反応させることで、非対称な構造をもつ単核錯体をいずれも単一の異性体として得た。各種二次元NMR・質量分析・円偏光二色性測定などの結果、それぞれの単核錯体はいずれも特定の3つのbpyがfac-Λ体を形成した構造であることが示された。錯形成しないbpyの構造についても6~8量体で共通点があり、いずれの錯体でも3つは中央のトリスビピリジルfac-Λ-錯体が作る溝に沿ってらせん状に配置され、7量体もしくは8量体の場合は余りの1つもしくは2つのビピリジルアミド基が、アミド基同士の分子内水素結合や芳香族相互作用などにより非対称な構造の安定化に寄与していた。さらに、6~8量体錯体のうち7量体のみが対アニオンのトリフルオロメタンスルホン酸アニオンを包接することも見出し、アミド基の数が分子内水素結合パターンに与える差異が、分子認識能に大きく影響することが示された。以上の結果より、配位部位を余らせるような配位駆動自己集積により非対称な超分子錯体を構築するという分子設計指針を実証し、本領域「配位アシンメトリー」の推進に大きく貢献することができた。
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