本研究では,分子集合の過程で次々と生成しては消えていく中間体生成物(反応中間体)の原子レベル構造解析を目的として,化学修飾カーボンナノホーン(CNH)を用いて溶液中から釣り上げ,単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡法(SMART-EM)によりその構造を捉えることに成功した.我々は,芳香族アミンを前駆体としたジアゾニウム塩生成を経たin situラジカル生成およびその付加反応により,芳香族化合物でCNH先端を直接化学修飾できることを新たに見いだした.本手法に基づき,亜鉛テトラポルフィリン(ZnTPP)の集合過程における初期クラスターを捕捉するための「化学釣り針」として働く亜鉛テトラフェニルポルフィリン錯体(ZnTPP)を結合したCNHを新たに合成した.ZnTPPの溶液から回収したZn-TPP CNHのSMART-EMイメージングにより、ZnTPPが数個のZnTPP分子を捕獲して,可動性のある分子クラスターを形成していることを明らかにした.SMART-EMの動画ではクラスターが揺らいでおり,3つの分子が完全に対面して積層している画像シミュレーションと一致せず,むしろ無秩序であることから,ZnTPPの分子集合過程の初期においては周期性の構造体は形成せず,乱雑なクラスターが生成することを実験的に証明した.これは理論で示される二段階核形成のモデルと一致しており,ポルフィリン分子集合における核前駆体を実験的な映像として初めて捉えた成果である.
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