本研究では非対称配位圏を生み出す分子群として糖鎖に着目し、配位アシンメトリーの生物学的要素を物質化学の機能設計指針へと還元することを目指した。そこで、主にNMR分光法と計算化学手法を用いて新たな解析法の確立に取り組むとともに、糖鎖や関連化合物の構造・相互作用解析を行った。 多くの複合糖質や多糖類に含まれるシアル酸やアミノ糖類の一般的な代謝前駆体であるグルコサミンをモデルとして、固体NMR計測と量子化学計算から、水酸基に関する各種NMRパラメータを推定することに成功した。固体NMR計測で得られるパラメータは、僅かな二面角の変位に敏感に反応することが知られており、非対称配位化合物の構造情報取得に有効な手法となると期待される。また、溶液NMR法による多次元計測を利用して、糖鎖を含有する合成高分子の多点相互作用の解析や、アシンメトリックな超分子錯体の構造解析を進めた。 一方、ランタニドの常磁性効果を利用したNMR計測と分子動力学シミュレーションを組み合わせた、糖鎖の動態解析を通して得られた大規模なデータに対し、情報科学的な解析を行うことに取り組んだ。非線形データの分析法を活用し、分子全体の自由度を包括的に取り扱う方法論を樹立した。これにより、細胞内レクチンへの識別標識となる種々のオリゴ糖鎖が取り得る配座の違いを見出すことができた。この方法は、様々なソフトマテリアルの動的構造解析へ応用できるものと期待される。
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