研究実績の概要 |
近年我々は中心金属種の異なる種々の二次元層状Hofmann型MOF、Fe(py)2[M(CN)4] (Mpy、py: ピリジン、M = Pt, Ni)を基盤材料として、逐次積層法を用いて面内/面外方向で成長方向が制御された結晶配向性MOFナノ薄膜を作成し、各種構造評価を行なってきた。最終年度となる2020年度は、ナノメートルスケールで膜厚が精密に制御された結晶配向性ナノ薄膜を用いて温度誘起のスピンクロスオーバー現象について研究を行い、結晶のダウンサイズに伴う特異なスピン転移挙動の変化を観測することに成功した。 まず、バルク状態において200 K付近でスピンクロスオーバー転移を示すPtpyの結晶サイズ効果についてRaman分光法を用いて検討した。磁化率測定が困難なナノ薄膜ではスピン状態変化をRaman分光法で追跡できることが知られているが、これまで着目されていなかった環呼吸振動モードを用いることで良好なS/N比でスピン転移観測が可能であることを明らかにした。ナノ薄膜についてRaman分光によりスピン転移挙動を検討したところ、膜厚が小さくなるに従い高スピン(HS)-低スピン(LS)転移温度が低温側へシフトし、ヒステリシス幅の減少と低温側でHS成分が残るという顕著な結晶サイズ依存性が観測された。 次に、Nipyのナノ薄膜が示すスピンクロスオーバー現象について、Au基板表面のアニール処理の有無により生成する薄膜結晶の表面形状を作り分けることで通常のHS状態とは異なるスピン転移不活性な高スピン(HS2)状態が生じることを見出した。アニール処理を行っていないサンプルでは結晶サイズに応じたHS-LS転移が見られるのに対し、アニール処理を行った基板上ではスピン転移が測定温度範囲内で確認できず、HS2状態であることが明らかとなった。
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