研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04583
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
三方 裕司 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (10252826)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イソキノリン / キノリン / 不斉酸素原子 / エナンチオマー / 光学分割 |
研究実績の概要 |
非共有電子対を2つ有する酸素原子の場合、酸素原子上にキラリティーを発生させるためには、非対称エーテル分子の酸素原子の非共有電子対の片方に金属を配位させると同時に、残る非共有電子対の反転を抑制する必要がある。本研究では、精密に分子設計された配位子を用い、適切な金属イオンの選択を通じて「不斉酸素原子」という概念を一般化することを目的とする。今年度は配位アシンメトリに関する以下2件の研究テーマについて研究を行った。 1.不斉窒素原子と不斉酸素原子を有する銅錯体の合成と光学分割の試み 金属に配位することにより不斉窒素原子と不斉酸素原子を発生するアキラルな配位子を設計・合成し、その銅錯体を調製した。得られた錯体のX線結晶構造解析により、金属に配位した不斉窒素原子と不斉酸素原子の発現が確認された。これらの不斉中心の反転は困難であることが予想されたが、現在のところ、キラルなHPLCおよびキラルなカウンターアニオンを用いた再結晶による光学分割には至っていない。このテーマについては引き続き検討を行う。 2.蛍光応答の標的金属がジアステレオマー間で逆転するキノリン化合物の設計 一般的に、同族元素である亜鉛イオンとカドミウムイオンを蛍光プローブ分子によって識別することは困難である。本研究では、配位子としてのキノリンの特性を活かし、錯形成時の配座と金属親和性を精密にコントロールすることにより、プローブ分子中の不斉炭素原子の立体配置が反転したジアステレオマー間で蛍光応答の標的金属が逆転する系を見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の欄で述べたように、今年度は2件の研究テーマに対して重点的な取り組みを行った。テーマ1に関しては目的物の合成と構造決定には成功したが、光学分割に対してはまだ検討の余地が残されており、次年度にさらなる努力が必要となっている。テーマ2に関しては、我々が独自に発見した蛍光プローブ分子が示す興味ある現象の詳細なメカニズム解明に成功し、学術論文にまとめることができた。以上のことから、今年度は概ね順調に進んでいると自己評価した。以下にその詳細を述べる。 1.不斉窒素原子と不斉酸素原子を有する銅錯体の合成と光学分割の試み 金属に配位することにより不斉窒素原子と不斉酸素原子を発生するアキラルなキノリン系配位子の設計および合成に対しては問題なく達成することができた。また、その銅錯体の調製にも成功した。得られた錯体のX線結晶構造解析により、金属に配位した不斉窒素原子と不斉酸素原子の発現が確認された。しかし現在のところ、キラルなHPLCおよびキラルなカウンターアニオンを用いた再結晶による光学分割には至っていない。この点において次年度にさらなる努力が必要となっている。 2.蛍光応答の標的金属がジアステレオマー間で逆転するキノリン化合物の設計 キノリン系蛍光性配位子の合成に成功し、配位子に存在する一つの不斉酸素の配置が異なる一組のジアステレオマー対を調整することができた。さらに、金属イオンに対する蛍光応答を調べたところ、ジアステレオマー間で蛍光応答の標的金属が逆転することを見いだした。金属錯体の結晶構造解析にも成功し、その安定性を結合定数の算出により見積り、さらに理論計算により金属錯体形成時の蛍光特性を詳細に検討することにより、この興味ある現象に対し、妥当な解釈を与えることができた。これらの成果は、学術論文としてまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては、上で述べたテーマ1における金属錯体の光学分割に重点的に取り組む予定である。中心金属を銅以外の金属イオン、特に平面四配位構造をとるパラジウムイオンや白金イオンにも拡張し、不斉酸素原子を発生する金属錯体の光学分割に挑戦する。光学分割の手段としては、これまで用いてきたキラルなHPLCおよびキラルなカウンターアニオンを用いた再結晶による方法にさらなる工夫を加えることも行う。すなわち、金属中心に溶媒などの配位分子がアクセス可能となるような分子設計を施し、キラルな配位分子を含むジアステレオマーとしてHPLCや再結晶により分割する方法も採用する。今年度の研究成果を応用し、この系にさらに不斉窒素原子の発生を付与することも可能である。このように、我々がこれまで得てきた分子設計および合成技術を総動員することにより、本研究の目的である「不斉酸素原子」の安定化を目指す。
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