研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04588
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
國武 雅司 熊本大学, 産業ナノマテリアル研究所, 教授 (40205109)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 配位高分子 / SURMOF / 結晶制御 / 希土類 |
研究実績の概要 |
波長選択的赤外光熱変換材料への希土類錯体の応用を検討した。 希土類は、長い蛍光寿命、比較的大きなストークスシフトなどの特徴から、発光材料として盛んに研究が行われている。発光効率の向上には、非対称性の導入や剛直化によって無輻射再結合過程の抑制が重要である。これに対し、全く逆のアプローチとして、振動緩和による無放射遷移を優先させると、希土類は近赤外領域に狭い波長選択性を有する光熱変換ナノ材料となりえる。光熱変換材料の応用のひとつに、ポリN-イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)などの感温性ゲルと組み合わせた光応答アクチュエータがある。中でも近赤外応答ソフトアクチュエータは、「生体の窓」と呼ばれる生体を透過しやすい近赤外の波長域 (650-1800 nm) の光を用いて、生体外から生体内のマイクロデバイスやスイッチをリモートコントロールできる可能性が注目されている。我々は、近赤外領域の狭い範囲に吸収帯を示す希土類ナノ粒子を光熱変換材料として用いた波長選択性を持つ近赤外応答アクチュエータを提案している。 今回、pNIPAMとアクリル酸の共重合体に希土類イオンを配位させるタイプのニ波長近赤外応答のゲルアクチュエータを作製した。希土類含有ゲルは、LCST以下で透明であるが、808 nm光を照射すると、Nd含有ゲルのみが白濁するのに対し、980 nmの光を照射したときは、Yb含有ゲルのみが白濁した。これは、NdとYbが吸収帯に相当する近赤外光の吸収・発熱により、共重合体ゲルの温度を上昇させて、LCSTを超え、体積相転移を引き起こしたためである。近赤外光の照射を止めると、元の透明に戻る。希土類錯体が波長選択性を持った光熱変換材料となりうることが証明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次元MOFナノシートの研究では、酢酸平衡化において、速度論的停止条件を制御するシステムを構築した。温度を下げてリガンド交換反応を停止するよりも、酢酸濃度を徐々に下げて停止する方が、より高品質なシート形成が可能であることを見いだした。また、溶液相でも比較的穏やかな条件で再結晶化を誘起できることを見出した。 ヤヌス型無機ナノシートの構築し、位相差AFM像による裏表の識別に成功した。SURMOFの酢酸平衡化において、ナノシートの末端のアモルファス領域と結晶領域を識別して観察することに成功した。 2種類の希土類酸化物ナノ粒子を個別に埋め込んだ感温性ハイドロゲルを合成し、波長により複数の動作が可能なソフトアクチュエータの構築に世界で初めて成功した。さらに、ナノ粒子ではなく、希土類錯体を光熱変換材料とすることにも成功し、材料及びデバイス設計の自由度を広げた。またアクチュエータにとどまらず、同様の多波長近赤外光制御メカニズムを利用した可逆接着(光脱着)やマランゴニ対流の制御に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
こうしたソフト結晶化技術は、配位高分子構造体のエピタキシャル成長技術である。穏やかな条件で平衡性を高めた条件での再結晶化によって、面内、面間、基板表面にアシンメトリーを導入した新たなアシンメトリー配位高分子を開発する。対称性の崩れた表面・空間を基盤とした再結晶化によって、多孔性配位高分子材料に様々なアシンメトリーの導入を試みる。
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