異なる種類の典型元素間の結合では、各元素の特性に加えて、両元素の軌道間相互作用や分極といった非対称性に起因する多様な性質が見られる。そのような非対称異種元素間結合をもつ典型元素化合物を遷移元素と組み合わせることによって、従来にはない性質をもつ金属錯体を創出することが可能となる。本研究では異なる配位状態にある非対称異種元素間結合をもつ化合物として、3配位リン原子と4配位ホウ素原子が結合を形成するアニオン性リン-ホウ素結合化合物(ホスフィノボラート)を合成した。DFT計算を行なってリン原子の孤立電子対がHOMOとなることを確認し、アニオン性リン-ホウ素結合化合物を金属錯体のホスフィン配位子としての活用の可能性を明らかにした。ホスフィノボラートを配位子として有する金錯体ならびイリジウム錯体を合成し、X線結晶構造解析によりその構造を明らかにした。イリジウムジカルボニル錯体のIR吸収スペクトルにおけるカルボニル基の伸縮振動が低波数側に観測されたことから、ホスフィノボラートがσ供与性の強いホスフィンとして機能することがわかった。ホスフィノボラートと単体セレンとの反応で得られるホスフィンセレニドの77Se NMRにおける結合定数が小さく、リン原子の孤立電子対のp性が大きいことも明らかにした。ホスフィノボラートの高いσ供与性を利用して、金触媒による末端アルキンのヒドロアミノ化反応をおこなったところ、高収率で反応が進行することを明らかにした。
|