研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04594
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
芳賀 正明 中央大学, 理工学部, 教授 (70115723)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ルテニウム錯体 / プロトン共役電子移動 / メモリスタ / プロトン伝導 / 二端子デバイス / ポリビニルピリジン |
研究実績の概要 |
脳内の信号処理を行う生体シナプスを模倣したメモリスタが注目されている。しかし、プロトンを媒体とし、情報伝達・貯蔵するメモリスタの研究例はほとんどないことから、プロトンを伝導媒体とするメモリスタの作製を目指した。我々が注目したのは、プロトン共役電子移動を示すRu錯体である。Ru錯体は周辺配位子を変えることで、電位ならびに錯体のpKaを設計できる。ここでは、二種類のRu二核錯体Ru-NHとRu-CHを電極に逐次積層膜として別々に固定した電極を用いた。Ru-NHの酸化還元電位はRu-CHに比べ0.3~0.6 Vほど高電位側にあり、Ru-NHのRu(II)状態でのpKa値はRu-CHのRu(III)状態のpKa値と近く6付近に存在するが、Ru-NHがRu(III) 状態へ酸化され、Ru-CHがRu(II)状態に還元されると、両者のpKaに4以上の差が生じる。この2電極間にプロトン伝導するポリビニルピリジン(P4VP)を挟んで二端子デバイスを作成した。P4VPのpKaはおよそ5.2であるので、錯体との水素結合を通してプロトン授受が可能である。この二端子デバイスの電流電圧(I-V)特性を測定すると”8の字”型のヒステリシスを示すことがわかった。これは、2電極への電圧印加により、中心Ruの酸化数が変化してpKa差を生じ、プロトン授受能を持つP4VPを通してプロトン伝導として高伝導状態となると考えられる。このように、プロトン伝導を示す高分子であるポリビニルピリジンを媒介したプロトン伝導による新しいプロトンメモリスタを提案し、その動作を実証できた。またビニルピリジンを含むブロックポリマーのミクロ相分離により形成されるシリンダー構造をプロトン伝導チャネルとして利用する系についても検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロトンを伝導媒体としたメモリスタを、プロトン共役電子移動を行うルテニウム錯体を用いて組み上げる構想を立てた。これは、生体膜でのプロトン勾配によるエネルギー生産にヒントを得ており、電極に固定した2つの錯体をそれぞれ2電極として、それらの電極間での電位差とpKa差が酸化還元により作り出される。この二端子を、プロトン伝導する高分子で挟み込み、デバイスルとして組み上げることでメモリスタ特性を観測できたことは大きな一歩だと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの酸化物が主流のメモリスタでは酸素欠陥の移動が伝導のヒステリシスを起こすことがわかってきている。それに対して、我々は新しい伝導媒体として、プロトンを伝導媒体とするプロトンメモリスタの例を更に増やしていきたい。そのために、プロトン共役電子移動可能な錯体や酸化物について、今後は拡張していく予定である。
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