研究領域 | 配位アシンメトリー:非対称配位圏設計と異方集積化が拓く新物質科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04603
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
須田 理行 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (80585159)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | キラリティ / スピントロニクス / ナノ粒子 / 自己組織化 / スピン偏極電流 |
研究実績の概要 |
本研究では、キラル分子によるスピン偏極現象:Chiral-induced Spin-selectivity (CISS)効果を利用し、キラル配位子によって連結された金属ナノ粒子を電極間に超格子化することで、ここを流れる電流に対し"多重CISS効果"を与え、100 %に限りなく近い高スピン偏極率を実現することを目的としている。また、光および熱によってそのキラリティを反転させるキラル分子モーター配位子を利用することで、外場制御可能な機能性スピン偏極素子の開発にも取り組んでいる。 本年度は、Auナノ粒子とキラルジチオールの交互積層膜を作製することで、「多重CISS効果による高スピン偏極率の実現」という仮説の実証を行った。Au薄膜を蒸着した基板をキラルジチオールである(D or L)-dithiothreitol、粒子径約5nmのAuナノ粒子に交互に浸漬することで、交互積層膜の製膜を行った。この複合膜上にNi磁性電極をスパッタすることで、磁気抵抗デバイスを作製した。得られたデバイスの基板と垂直方向に磁場を印加し、磁気抵抗を測定したところ、20%以上の巨大な磁気抵抗が観測され、高スピン偏極率の実現が示唆された。一方で、アキラルなmeso体のジチオールで作製した複合薄膜では磁気抵抗は観測されず、得られたスピン偏極電流がキラル分子由来であることが資された。以上の結果は、多重CISS効果によって高いスピン偏極率を有するスピン偏極電流が生成されたことを強く示唆する結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、当初2年目までの実現を予定していた「多重CISS効果による高スピン偏極率の実現」という仮説をほぼ実証することができ、研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
①キラル分子モーター配位子による光スピン偏極率制御: 令和元年度までに得られた複合薄膜におけるキラル分子をキラル分子モーター配位子に置き換えることで、光照射によるスピン偏極率への効果を詳細に検討していく。最終的には、±100 %スピン偏極電流のスピン偏極方向を光照射によってスイッチ可能な新奇光スピントロニクス素子の実現を目指す。 ②電界効果を利用したキラル-半導体ナノ粒子ネットワークにおけるスピン偏極率測定: 多重CISS効果によるスピン偏極率は(1)キラル分子のトンネル過程によるスピン偏極、と(2)ナノ粒子伝導過程におけるスピンの緩和(減衰)のバランスによって決定される。ナノ粒子に金属ではなく比較的軽元素から構成される半導体(CdSなど)ナノ粒子を用いることで、更なるスピン偏極率の向上を目指す。この場合、ナノ粒子自体の低い伝導率がネックとなる可能性が考えられるため、複合薄膜への電界効果を併用することで半導体の伝導度を制御しながらスピン偏極率を測定する。これを発展させ、新奇スピンFETデバイスへの応用も検討する。
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