当該研究では、エラスティック結晶、すなわち弾性的な機械変形が可能な分子結晶の機械的変形に基づき、その結晶空間の制御を目的として研究を行った。特に、この新学術領域内または外部との共同研究によって、結晶の格子空間(分子間パッキング)変化による物性変化を検出する方法を模索した。エラスティック結晶の弾性的bendingによって結晶の伸長elongationと圧縮contractionが同時に起こるため、この結晶格子は全体としてunsymmetricな構造になる。この空間を調べるために単純な粉末X線回折装置で、結晶の外側と内側を1次元反射パターン調べるためのジグを自作し、格子の変形を調べた。狙い通り、結晶変形が明確に格子の伸び縮みへ影響を及ぼすことがわかった。また、結晶の引っ張りによるelongationによって、格子変形が異方性ポアソン効果を示すこともわかった。 一方で、開発した空間分解蛍光スペクトルにより10-20μm(スポット径)の微小領域に焦点を当て調べることによって、検出される蛍光スペクトル が、外側(elongation side)と内側(contraction side)で異なることがわかった。この結果は結晶中で実現されたunsymmetric空間が物性に影響を与えたことを示唆する。結晶のtwistingによるキラル空間、asymmetric空間の実現を観察すべく、共同研究を模索した。通常の円二色性(CD)スペクトル測定などは異方性のある分子性固体、すなわち結晶の測定に向いておらず、適した装置を探す必要がある。これに対して、マイクロ径ピンホールを採用した有機結晶の部分測定法を利用し、測定が可能ではないかと考えた。早稲田大学の研究グループとの共同研究により、エラスティック結晶のCDスペクトル測定に取り組んでいるところである。
|