研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
19H04625
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
並木 敦子 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (20450653)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 地震 / 粘弾性 / アスペリティ |
研究実績の概要 |
2年計画の初年度にあたる2019年度は、実験装置を立ち上げ、データを採取する事に力点を置いた。地殻を摸したゲルの下に沈み込むプレートを摸したアクリル板を移動させる実験装置の骨格はこれまでと同様であるが、本研究ではこれに海山を摸したアスペリティを導入した。具体的にはアクリルプレートの表面にアスペリティを摸した凹凸をつけた。アスペリティとしてサイズの大きい独立した物と、単独サイズの凹凸が並んだ物、複数サイズの凹凸がランダムに並んだ物を使用した。また、偏光シートと光源を使う事で、アスペリティ周辺における応力蓄積過程を可視化した。その結果、沈み込み速度が十分に速い場合にはアスペリティ周辺にアスペリティと同程度のサイズの応力不均質が生まれる事、沈み込み速度が遅い場合には応力不均質のサイズが小さくなる事を確認した。また、実験からすべり量と地震発生断層表面の凹凸サイズの関係の重要性が明らかになった。同じサイズのアスペリティが並んでいる場合、このアスペリティサイズと地震発生に伴うすべり量が同程度ならば、極めて規則的な繰り返し地震が起きた。一方、凹凸サイズが均一ではない場合、上盤と下盤の表面にある凹凸のかみ合わせによって、地震を発生する場合としない場合がある事もわかった。これまで、沈み込むプレート上の凹凸はアスペリティサイズを決める物であり、これが決まれば地震によるすべり量が自動的に決まると考えられてきたが、実は、プレート上の凹凸がすべり量にも影響している事を今回の実験結果は示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、2019年度中に実験装置の改良を行い、実験を始める事を想定していたが、すでに広いパラメータ範囲で実験を行い、重要な結論を得られている。一方、実験で得られる地震波形を解析はあまり進んでいない。よっておおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、まず上記の実験結果を詳細に解析し、室内実験に基づき地球の地震発生を推測できるスケーリング則を作成する。スケーリング則については最も単純な粘弾性体であるMaxwell fluidを仮定した簡単な数値解析を行い、その正当性を評価する。緩和時間と沈み込みによる歪速度、アスペリティ周辺に発生する応力不均質のサイズの関係について検証する。また、岩石の緩和時間の深度(温度)依存性について、実際の岩石について測定された、応力―歪速度関係を用いて検討する。地殻の温度分布については地殻熱流量に基づく推定を用いる。これまでの実験結果が示唆する重要な点は、アスペリティサイズとすべり量を決める凹凸の組み合わせが丁度よい場合、釜石沖などで観測されている繰り返し地震が起き得るという事である。しかし、偶然にそんな都合の良い組み合わせができるとは考えにくい。そこで、アスペリティサイズが決まると、毎回ほぼ同じすべり量の地震がおこり、これが断層面に一定間隔の凹凸を作る可能性について検討する。実際、地震に伴い断層面の形状が変化する可能性は指摘されている。これらの結果に基づき、断層面の凹凸サイズとすべり量について、実際の地震観測データと比較する事が可能であるか検討する。以上の成果がまとまれば、長い間考えられてきたアスペリティ仮説の実態に対する理解が深まる。最終年度である今年度内にはデータ解析を終え、論文として執筆し、出版することを目指す。
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