新型コロナウイルス感染症対策のため,本科研費を使った首都圏外の出張が困難となり,活動に制限が出た.そのため,首都圏内での研究交流活動を主に行い,海外も含めたオンライン交流活動とを併用しつつ行うことに切り替えた. 9月には,石英形成サイクルモデルの理解を深めるため,感染症対策の上,つくば市内の研究所にて参加者4人の勉強会を行った.その結果,スロー地震発生域で形成されたと考えられる石英脈の方向は2パターンあり,それは報告者が既に得ているスロー地震発生域下のプレート境界に近いスラブ内(スラブ地殻内)で見られる,応力軸の時間変化量とほぼ一致していることがわかった.これは,石英脈形成過程が,スラブ地殻内の応力場の時間変化と関係する可能性を示している. 12月には東京大学大気海洋研究所にてスロー地震発生地域の地質学に詳しい山口飛鳥准教授と研究打ち合わせ及び議論を数度行い,同所でのセミナー発表も行った.それにより,紀伊半島についての議論を深め,マントルウエッジと呼ばれる陸プレート領域における地震活動に注目するべきであることがわかった.そこで得られた知見をもとに解析データを再び精査し,スラブ内地震及びスロースリップの発生後に,マントルウエッジでの地震活動が活発になる傾向を見出すことができた. これまでの成果をもとに,下記のようなスロースリップの発生環境モデルを打ち立てた.すなわち,スロースリップを引き起こす地殻流体は,スラブ内由来であり,それがプレート境界に移動していく.流体が蓄積するに従って蓄積した石英脈により,間隙水圧が上がり,スロースリップを発生する.そして,スロースリップ後の地殻流体は,プレート境界で析出している部分を避けて移動し,想定東南海地震の断層面側に移動するものと,陸プレートの中(マントルウエッジ領域)へ移動する流体とに分かれるのかもしれない.
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