研究領域 | スロー地震学 |
研究課題/領域番号 |
19H04628
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
高橋 美紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (40470033)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スロースリップ / 暴走滑り / 圧力溶解クリープ / ダイラタンシー |
研究実績の概要 |
岩塩と白雲母の混合物は、速度では圧力溶解クリープをメカニズムとする安定な剪断と、高速ではダイラタンシーを伴い大きく速度弱化を示す摩擦滑りによる剪断の両方のメカニズムを常温で再現することができ、脆性―塑性遷移領域の断層挙動を観測するに適したアナログ物質である。この岩塩と白雲母の混合物を用い、応力一定のもと、変形挙動がどのように遷移していくか、実験を行った。 過去の研究によりこの混合物は速度に対して山形の強度プロファイルを持っていることがわかっている。つまり、最大強度以上の応力をかけると、不安定になり、剪断の加速を伴って暴走滑りに至ることが考えられる。またこの最大強度より低速では圧力溶解クリープによる変形が卓越しており、変形の加速に対してダンパーの役割を果たす。つまりこの最大強度近傍の剪断応力において加速と減速が繰り返される(つまりスロースリップ)ことが期待される。応力をステップ状に増加させたときの、スロースリップとその後の暴走滑りに至る過程を観測可能と考えた。 結果、最大強度の8割程度の剪断応力がかかった時、応力の微増に伴う加速ののち、減速に転じる現象が観測された。応力の最大強度に達すると加速が進み、最終的には動的弱化を伴い、暴走滑りへと転じる現象も観測することに成功した。また、最大強度に達した後も、本来不安定で速度弱化を示す速度領域内へと加速が進行したにもかかわらず、ある速度に達するまで応力制御を保とうとし、暴走滑りに至らずにいる期間が存在することも分かった。 変形後の組織から、低応力・低速度の変形ではガウジ試料内に剪断集中は見られず、マイロナイト様組織が全体に発達していたが、暴走滑りに至ったガウジ試料にはピストンとガウジ試料の境界に近いところで剪断の局所的発達が見られた。暴走滑りに至るまでの加速の進行に剪断の集中が関わっていることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験とその解釈についてほぼ計画通りに進めることができている。また、次年度に実施するための準備として、不安定領域に至るに、ダイラタンシーと破壊が起きることを念頭に、AEセンサーによる破壊音の検知とガウジ層の弾性波速度や減衰について調べることができるよう準備も進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度準備したAE測定による不安定化の検知についての実験を進めるとともに、本研究で得られた成果を数値実験でも再現可能とするため、モデルの構築を行う。過去の研究をヒントに作ったモデルのプロトタイプは、岩塩の粒形が小さいほど圧力溶解クリープが優位に働く速度領域が広がることを示したので、脆性変形である粉砕がかえって塑性変形(安定変形)を強めるという負のフィードバックが働いていると予想され、この粒形変化がもう一つのevolution lawを構成する可能性を吟味する。成果は国際誌に投稿する。
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