研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04635
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
尾崎 太郎 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40709060)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 生合成 / ペプチド |
研究実績の概要 |
2019年度は、ホモプシンの生合成遺伝子を異種宿主である麹菌へ導入し、生合成経路の再構築を試みた。類縁化合物であるウスチロキシンの生合成に関する知見に基づき、前駆体蛋白質、チロシナーゼ、UstYホモログを異種発現したが、期待した生成物は得られなかった。導入した遺伝子のうち、前駆体蛋白質とチロシナーゼについては、ウスチロキシン生合成における相同蛋白質と交換しても機能したことから、配列に問題ないことが確かめられた。一方、同様の実験を行ってもUstYホモログについては機能を確認することができなかった。そこで形質転換体からRNAを抽出し、逆転写反応によりcDNAを調製した。これを鋳型としたPCR及び増幅産物の配列解析により、各遺伝子の転写とスプライシングを確認した。導入したすべての遺伝子の転写が確認できたものの、一部の遺伝子では特定のイントロンがスプライシングされていないことが示唆された。 そこで、異種発現に代わる方法として、生産菌の遺伝子破壊による機能解析を行った。二回交差の相同組換えにより、標的遺伝子座にハイグロマイシン耐性遺伝子を導入し、機能欠損株を作製した。初めに実験手法の確認のため、既に機能が報告されているメチル基転移酵素遺伝子を標的として遺伝子欠損株の作製を実施した。得られたハイグロマイシン耐性の形質転換体を培養し、その代謝物をLC-MSを用いて分析したところ、ホモプシンの脱メチル体の生産を示唆するピークが観測された。MS/MSによるフラグメント解析からもこの結果は支持され、期待した遺伝子欠損株が得られたものと考えられる。PCRにより標的遺伝子座にハイグロマイシン耐性遺伝子が挿入されたことも確認できたため、本手法がホモプシンの生合成研究に適用可能であると確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画した通り、麹菌を宿主として生合成遺伝子の異種発現を試みたが、ホモプシンや中間体の生成を確認することができなかった。その理由を検証するためにウスチロキシン生合成遺伝子との交換実験を行い、前駆体蛋白質やチロシナーゼの機能には問題がないことが確かめられた。また、機能が確認できなかったUstYホモログなど他の遺伝子については一部の遺伝子にスプライシングの異常が見られたことから、これが原因となって生成物が得られなかった可能性が示唆された。 異種宿主で生合成経路を再構築するには、生合成の初発段階に関わる遺伝子から順に宿主に導入するのが定法である。しかし、既に解析済みのウスチロキシンの生合成において初期の環化反応に関わる遺伝子がustYa/ustYbの二種であるのに対し、ホモプシン生合成遺伝子クラスターにはその相同遺伝子が五種存在するため、生合成初期に関与する遺伝子の絞り込みが難航した。生合成遺伝子クラスター中に存在する全ての候補遺伝子を導入する方法も検討したが、少なくとも8遺伝子以上を導入する必要があると見積もられたことから、各遺伝子の転写やスプライシングを確認しながら生合成経路を再構築するのは困難だと判断した。そこで、生産菌の各生合成遺伝子の欠損株を作製し、各形質転換体のホモプシン生産能や代謝産物の分析により、各生合成酵素の機能解析を進めることを計画した。既に機能が報告されているメチル基転移酵素遺伝子について妥当な結果が得られたことから、本手法は機能未知遺伝子にも適用可能だと期待できる。以上の結果から、2020年度に研究を進めるうえで必要な技術基盤は整ったと言えるため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ホモプシンについては、2019年度に確立した形質転換法を用いて、メチル基転移酵素遺伝子以外の機能欠損株を作製する。得られる各形質転換体をホモプシンの生産条件で培養し、代謝物を抽出する。ホモプシンを生産する野生株代謝物との比較解析を行うことで、形質転換体に特異的に蓄積する化合物を探索する。該当する化合物が検出された場合は、カラムクロマトグラフィーなどにより化合物を精製し、質量分析やNMRを用いてその化学構造を決定する。ホモプシンと構造を比較することで、標的とした遺伝子産物の機能が推定できると期待される。以上の実験をホモプシン生合成遺伝子クラスター中に存在する各遺伝子について実施し、ホモプシンの生合成経路について妥当なモデルを構築する。得られた仮説は、麹菌異種発現により検証し、ホモプシンの全生合成を目指す。この際、スプライシングに問題が生じた遺伝子についてはcDNAの配列をクローン化するなど、2019年度の実験から得られた知見も活用する。また、遺伝子欠損株から生合成中間体が得られる場合は、これを基質として組換え蛋白質による酵素反応も実施する。 ホモプシンの研究と並行して、シクロクロロチンに関する研究にも着手する。本化合物は非リボソームペプチド合成酵素 (NRPS) によって生合成される化合物でRiPPsではないが、生合成遺伝子クラスターには複数のUstYホモログがコードされており、その機能に興味がもたれる。まず、NRPS遺伝子をクローン化して、麹菌へ導入する。これによりNRPSにより生合成される初期の中間体を生産する形質転換体が得られると期待される。生合成中間体の生産が確認できたならば、ustYホモログや他の生合成遺伝子を順次導入し、最終産物への変換を試みる。また、ホモプシン同様遺伝子欠損株を用いた解析や組換え蛋白質による酵素反応も並行して検討する。
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