公募研究
ドウモイ酸(DA)とカイニン酸(KA)などカイノイドは、イオンチャネル型グルタミン酸受容体のカイニン酸タイプの強力なアゴニストである。DAは紅藻と珪藻、KAは紅藻で生産される。我々はDAを含有する紅藻ハナヤナギから開環型を含めた6種の生合成中間体を単離、構造決定し、DA生産珪藻を用いた安定同位体ラベル体の取り込み実験により、その中の1種の化合物がDAの前駆体であることを証明した。最近、Mooreらは、珪藻よりDA生合成遺伝子クラスターを報告した。本研究では、最近発見したカイニン酸関連化合物4種の単離と化学構造の決定を行なった。高分解能LC-MSやLC-MS/MSで、カイニン酸を含む紅藻マクリを探索した結果、カイニン酸類縁体と思われる分子式を示す化合物を、少なくても4種を発見した。これらの化合物は非常に微量しか存在していないし、極性が極めて高く分離は困難を極めたが、最終的に4種全てをマクリより単離した。さらに、立体化学を含めた化学構造を、各種2D-NMRやMSスペクトルを用いて決定した。絶対立体配置はマーフィー法を用いて決定した。また、13C, 1H NMRシグナルの帰属を行い、既知の類縁体と比較して構造を確認した。結論として、これらの化合物は、全て新規化合物で、4-hydroxykainic acid (2), allo -4-hydroxykainic acid (3), N-dimethylallyl-L-glutamic acid (4), および N-dimethylallyl-threo-3-hydroxyglutamic acid (5)であった。この中で、化合物4はカイニン酸の生合成前駆体である可能性が高いと考えられた。また、化合物2と3はカイニン酸の構造活性相関研究に適する化合物と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
高分解能LCMSを用いた分子式選択的な戦略で、新規カイニン酸類縁体を発見した。その発見したカイニン酸生合成前駆体やカイニン酸酸化的代謝物と思われる化合物合計4種は、極性が非常に高く、精製は困難を極めたが、マクリより単離できた。その単離した化合物は、微量であったが、クライオプローブを駆使した各種2D-NMRやMSスペクトルを用いて決定した。また、絶対立体配置は、マーフィー法を用いて化学誘導を行い、調製した標品と比較して決定した。また、それぞれ、13C, 1H NMRシグナルのアサインメントを行った。このように、目標である、新規の4種の化合物の単離と構造決定を達成し、内容をまとめてJournal of Natural Productsに論文として報告することができたので、順調に進行したと考えられる。
1. 本研究で発見し、単離、構造決定した新規カイニン酸関連化合物4種の化学構造と、ドウモイ酸の生合成前駆体や関連化合物の構造を比較し、カイニン酸がドウモイ酸と類似機構で生合成されるかどうかを考察する。さらに、これらの化合物を用いて、マウス脳室内投与実験を行い、毒性調べて、カイニン酸と比較する。この結果からカイニン酸の構造活性相関を行う。特に4位の立体化学や置換基の毒性に及ぼす影響をこれまで報告されている構造活性相関と比較して、考察する。2. Mooreらが報告したドウモイ酸環化酵素DabCを得るため、我々が培養しているドウモイ酸生産珪藻Pseudo-nitzschia multiseriesより、mRNAを精製し、RP-PCRで該当遺伝子をクローニングし、pET系などの発現ベクターに組み込み、大腸菌を用いて発現させる。この酵素のpET系ベクターでの発現はまだ、報告されていないが試みる。この大腸菌の培養液にdainic acidなどドウモイ酸類縁体の前駆体を添加して培養し、DabCによる環化反応により、ドウモイ酸類縁体を調製する。3. ドウモイ酸のプレニル側鎖の末端がメチル、ヒドロキシメチルの化合物はすでに、ハナヤナギから単離、構造決定しているので、その毒性をマウス脳室内投与実験により、明らかにする。また、プレニル側鎖の末端がヒドロキシメチル、さらにアルデヒドにした化合物を化学合成し、さらに、グルタミン酸と還元的アミノ化反応で、各種開環型ドウモイ酸生合成前駆体類似化合物を調製する。その合成した化合物を上述の大腸菌発現DabCとin vitro反応させて、側鎖末端の構造が違う環化生成物を得ることを試みる。側鎖の化学合成の原料には、ゲラニルアセテートを用いる。うまくいけば、カイニン酸でも同様なことを行う。
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