環状テトラピロール型金属補因子は、ヘムやビタミンB12に代表される化合物群であり、酵素の活性中心などで広く利用されている。環状テトラピロール型金属補因子の基本構造は、環状テトラピロールの中央の穴に金属イオンが結合した、金属錯体型構造を取っており、環状テトラピロールと金属イオンの組み合わせにより、多様な機能が発現することから、魅力的な化合物群である。ごく最近、希少金属であるニッケルイオンを利用した珍しい環状テトラピロール型金属補因子「補酵素F430」の生合成cfbABCDE遺伝子群が同定され、それらがコードする生合成酵素の仕組みが注目されている。 本研究では、古細菌特有のニッケル含有環状テトラピロール型金属補因子である「補酵素F430」の生合成酵素のうち、最も重要なニッケルを基質とするCfbA酵素の分子機構解明を目指した。CfbAは、ニッケルイオンを、基質である環状テトラピロール「シロヒドロクロリン」に結合させ、生合成中間体「ニッケル-シロヒドロクロリン」を合成する。CfbAの基質、生成物結合型、および、反応中間体型のX線結晶構造解析を行い、活性部位に基質が結合したのち、酵素-基質-ニッケルの3者複合体型Ni錯体が形成することで、生成物を生み出すユニークな触媒機構が明らかとなった。さらに、様々な古細菌のCfbAのアミノ酸配列を用いた分子系統解析から、CfbAがII型キラターゼの祖先型であること、また、CfbAのHis-rich領域の有無により、さらにType I とType II のCfbAに細かく分類可能であることが明らかとなった。興味深いことに、Type I とType IIのCfbA 分類は、古細菌であるメタン菌の16S rRNA分子系統解析におけるclass I、class IIの分かれ方と一致しており、メタン菌の進化とCfbAの関連が示された。
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