研究領域 | 生物合成系の再設計による複雑骨格機能分子の革新的創成科学 |
研究課題/領域番号 |
19H04643
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内山 真伸 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00271916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 理論計算 / 生合成経路 |
研究実績の概要 |
多種多様な天然物の生合成は、生合成酵素内部での複雑な連続多段階反応によって合成されるため、中間体の単離や反応機構の全容解明は実験化学のみでは困難な場合が少なくない。計算化学・理論計算は実則困難な化学現象を解明できる大きな可能性を秘めている。本研究では、領域内の数多くの共同研究を通じて生合成の理論解析・解明を目指す。その過程で、構造多様性創出の原理(反応経路、選択性発現機構など)を明らかにし、実験化学者との共同研究を通じて遷移状態制御により新規セスタテルペン骨格構築への発展をはかる。応募者は、これまでに基盤研究、若手研究、さきがけ研究などを通して、実験化学・計算化学両面からのアプローチによる機能性分子の設計・合成・応用研究や新規反応の開発などを精力的に進めてきた。 本研究では、計算化学的手法を基盤として、当研究グループが独自に開発してきた『遷移構造解析』『反応経路自動探索法』などを駆使して、未解明生合成経路の全容解明を行っている。遷移状態を正確に理解することで、これまで理論的な解明が遅れてきた「多段階連続反応」「触媒反応」である生合成の未解明機構解析ならびに「生合成リデザイン」への貢献を目指す。前回の公募研究を通じて、複雑なテルペン系生合成酵素について、いくつかの共同研究を行い、ジテルペン化合物 Cyclooctatin、ならびにセスタテルペン化合物 Sesterfisherol、Quainnulatene などについて、既に領域内 阿部 教授、及川 教授、南 准教授、葛山 准教授との共同研究を行い、生合成経路の理論解析の概要が完了している。これらの成果は、理論・実験の両面からのアプローチによりテルペン環化反応の閉環制御機構を解明することが可能であることを証明するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「天然物」は、微生物や動植物の持つ生合成のダイナミズムが作り出す多彩な化学構造と機能を持つ有機分子群である。多種多様な天然物の骨格は、(生合成)酵素内部での複雑な多段階連続反応によって生合成される。しかも、いくつかの酵素は、現在の有機化学では難しいとされる反応さえ簡単に触媒してしまう。ここで得られる知見は、新反応開発にとっても大変興味深い。生合成は、一般に多段階にわたる連続反応を、緻密に、正確に、短時間で、効率的に行う。このことは同時に、“反応性が高く”“寿命が短い”“手に取り出せない”各種中間体の単離・構造決定や生合成機構の全貌解明が非常に難しいことも示している。天然物の巧みな『ものづくり』の仕組みを解き明かし、目的に応じて改変することができれば、創薬・物質創製に強力なツールをもたらすに違いない。 前回の公募研究以来これまで5つのグループとの共同研究を開始し、10を超える共同プロジェクトを進めてきた。これまでの研究成果として、数多くの学会発表に加えて、原著論文としてJ. Am. Chem. Soc.、Angew. Chem. Int. Ed. 、Sci. Rep.、Org. Lett. などを一流国際誌に数多く論文発表しており、当初の予想を超えて順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
多種多様な天然物の生合成は、生合成酵素内部での複雑な連続多段階反応によって合成されるため、反応機構は極めて複雑であり全容解明が難しい。さらに、酵素内部での複雑な連続多段階反応のため、中間体の単離や反応機構の解明は実験科学のみでは困難である。計算化学・理論計算は実則困難な化学現象を解明できる大きな可能性を秘めている。本研究では、領域内の数多くの共同研究を通じて、理論(理論化学・計算化学)と実験(合成生物学、生合成経路研究)の協奏による生合成酵素の再設計(リデザイン)に貢献したい。種々の天然物の基本骨格合成酵素へと応用し、酵素触媒機能の合理的な改変にも取り組みたい。今後は、理論解析の結果に基づく合理的な触媒機能の改変にも着手し、さらなる分子多様性と新規骨格の創出への展開もはかる。また、複数のテルペン環化酵素の理論解析・比較を行うことにより、構造多様性の創出を司るアミノ酸残基の解明を目指す。
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