公募研究
セスキテルペノイドは3つのイソプレン単位からなるファルネシル二リン酸(FPP)を共通前駆体とするテルペノイドの一群で、その構造多様性はテルペノイドの中で最大、かつ多くの有用化合物を含む。本研究では、高等植物においてセスキテルペノイド生合成に関与する酵素群、特に、テルペノイドの共通前駆物質であるファルネシル二リン酸から多様なセスキテルペン骨格を生成するセスキテルペン環化酵素、セスキテルペン骨格の酸化修飾を触媒するシトクロムP450モノオキシゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼといった酵素群の薬用植物種からの新規マイニングと異種植物由来の種々の酵素の合目的な組み合わせにより、抗ガン活性を有するGuaianolide Sesquiterpene Lactones(GSL)の生合成経路の異種ホストにおける再構築や、多様なセスキテルペノイドを生産するものの抗マラリア薬原料であるアルテミシニンを生産するクソニンジン(Artemisia annua)以外は詳細な解析がなされていないヨモギ属植物に着目した植物由来希少セスキテルペノイドの生合成系の解明と再構築を目的とする。組換え酵母内におけるGSL生合成経路の再構築に資する酵素の候補として、Aquilaria sinensisおよびThapsia garganicaから計9種のCYP71ファミリーP450を選抜し酵素機能解析を行った。これらのうち、6種がδ-guaieneに対する酵素活性を示したが、そのうち4種については反応生成物の構造が未確定である。また、特徴的な三環性セスキテルペンを生産するA. abrotanumに着目した。5種の推定セスキテルペン環化酵素遺伝子を単離し酵素機能解析を行った結果、1種の酵素が三環性セスキテルペンである7-epi-silphiperfol-5-eneを単一の反応生成物として与えることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
1)組換え酵母内におけるGSL生合成経路の再構築に資する酵素の候補として、Aquilaria sinensisおよびThapsia garganicaから計9種のCYP71ファミリーP450を選抜し酵素機能解析を行った。これらの候補P450遺伝子をδ-guaieneを生産するように改変した出芽酵母に導入後、培養液の溶媒抽出物をGC-MS分析に供した。その結果、6種のP450がδ-guaieneに対する酸化活性を示した。そのうち、1種は13-hydroxy-δ-guaieneを、もう一種は11,12-epoxy-7-hydroxy-δ-guaieneを生成物として与えることが判明した。残りの4種は上記とは異なる構造未確定のδ-guaiene水酸化物を生成物として与えることが判明した。これら生成物の精製と構造決定を進めている。2)A. abrotanumは希少性の高い三環性セスキテルペノイドであるsilphiperfol-5-en-3-one Aが葉の総セスキテルペノイドの約60%を占めるという特徴的なセスキテルペノイドプロファイルを示す。silphiperfol-5-en-3-one Aは三環性セスキテルペンを前駆物質として生成すると推察されるため、本化合物の生合成に関わるセスキテルペン環化酵素の探索を行った。A. abrotanum葉のRNA-seq解析を行い、約4万遺伝子の配列情報を得た。ここから、5種の推定セスキテルペン環化酵素遺伝子を見出した。これらの推定セスキテルペン環化酵素をファルネシル二リン酸高生産酵母株において発現させて得られた代謝物のGC-MS分析、単離・精製ならびにNMRによる構造決定を行った。その結果、1種は三環性セスキテルペンである7-epi-silphiperfol-5-eneを単一の反応生成物として与えることが判明した。
1)Guaianolide Sesquiterpene Lactones(GSL)生合成経路の再構築:δ-guaieneに対する酵素活性を示したP450のうち生成物が未確定の4種について生成物を特定する。酵母における生成量が低く生成物の単離・精製が難航している。そのため、ベンサミアナタバコ葉での一過的なタンパク質高発現系をもたらすジェミニウイルス複製システムを利用したバイナリーベクター系(通称、つくばシステム)を導入した。本ベクター系を使用した生合成酵素群の同時発現と代謝物分析についても行う。2)ヨモギ属植物からの新規セスキテルペン合成酵素の同定:A. abrotanumから同定した5種のセスキテルペン環化酵素のうち4種の酵素(AabrBOS1-4)が単環性セスキテルペンである (+)-α-bisabolol を単一の生成物とするのに対して、残り1種(AabrSPS)は三環性セスキテルペンである7-epi-silphiperfol-5-eneを単一の反応生成物として与えることが判明した。AabrSPSはAabrBOS1-4に対して96%のアミノ酸配列同一性を示し、アミノ酸配列比較の結果から、単環性セスキテルペンである(+)-α-bisabololと三環性セスキテルペンへの環化様式の違いをもたらすアミノ酸残基の候補として7残基を見出した。そこで、変異導入解析により三環性セスキテルペンの生成に重要なアミノ酸残基の特定、ならびに、三環性セスキテルペンの酸化酵素の同定を行う。
すべて 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (6件)
Front. Plant Sci.
巻: 10 ページ: 1520
10.3389/fpls.2019.01520
Plant Cell Physiol.
巻: 60 ページ: 2496-2509
10.1093/pcp/pcz145
Plant J.
巻: 99 ページ: 1127-1143
10.1111/tpj.14409
New Phytol.
巻: 224 ページ: 352-366
10.1111/nph.16013
Phytochemistry
巻: 164 ページ: 144-153
10.1016/j.phytochem.2019.05.010
Communications Biol.
巻: 2 ページ: 384
10.1038/s42003-019-0630-0