本研究では、植物ジテルペン合成酵素 (DTS) と糸状菌シトクロムP450モノオキシゲナーゼ(P450)を酵母Saccharomyces cerevisiaeに発現させて人為的なハイブリッドマシナリーを構築し、植物型ジテルペン骨格分子が多彩に修飾を受けた化合物の創出を目指す。前年度までに、酵母のゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)供給代謝経路を増強した宿主株を作成した。本年度は、アビエタジエン・ミルチラジエン・エントカウレン合成酵素と各種P450を当該酵母に共発現させ、ジテルペン誘導体の生物合成に挑戦した。一連の検討においては、DTSと425種類の糸状菌P450 (褐色腐朽担子菌Postia placenta由来184種、白色腐朽担子菌Phanerochaete chrysosporium由来120種、麹菌Aspergillus oryzae由来121種)を共発現する形質転換酵母を作出し、GC-MSにより網羅的に代謝物の生成を追跡した。スクリーニングの結果、アビエタジエン合成酵素およびP. placenta由来のP450を共発現する株においてアビエタジエン水酸化体が生じることを明らかにした。当該化合物を精製してNMRによる解析を加えることで、生成物の化学構造を決定することにも成功している。生じたアビエタジエン水酸化体は天然において希少な化合物であるが、植物DTSと糸状菌P450の人為的な組み合わせによって効率的に産生することを可能にした。また、アビエタジエン水酸化体が各種生物活性を示すことも期待され、当該化合物の高度利用にも期待が持たれる。一方、ミルチラジエン・エントカウレンを用いたスクリーニングにおいては生成物の蓄積を確認することが出来なかった。酵母におけるミルチラジエン・エントカウレンの蓄積量を向上させるなどの検討を加え、更なる研究を進めている。
|