研究領域 | 光圧によるナノ物質操作と秩序の創生 |
研究課題/領域番号 |
19H04667
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
上野 貢生 北海道大学, 理学研究院, 教授 (00431346)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 光圧 / 結合系プラズモニックナノ構造 / 寿命制御 / コヒーレント制御 |
研究実績の概要 |
金属ナノ構造に誘起されるプラズモンの寿命が光圧に及ぼす影響についてその学理を明らかにするとともに、プラズモンの寿命の制御によって究極的に光圧を増強するナノ構造の設計を導出するために、本年度は1)プラズモンの寿命を制御する金属ナノ構造の設計と作製、2)光圧を定量的に評価する方法論を確立することに注力した。ナノ物質を効率的に捕捉するためには、勾配力が重要であり、ナノギャップ金2量体構造が適している。しかし、本構造は構造間の強い双極子-双極子相互作用により強い光散乱を示し、プラズモンの寿命が約1 fsと短くなってしまうことが明らかとなった。本研究では、共鳴波数は同じだが、サイズや形状が大きく異なる金ナノロッドをナノギャップ金2量体構造のナノギャップ近傍に配置することにより、散乱を若干抑制する準ダークモードプラズモンが誘起されることを明らかにし、ナノギャップにおいて77000倍に及ぶ光電場増強とプラズモンの寿命が4 fs程度まで長寿命化することを明らかにした。また、本研究では、蛍光相関分光法(FCS)により光圧を定量的に評価する方法論を確立した。共焦点光学配置により、マイクロメートル立法の測定領域を構築し、直径40 nmの蛍光ポリスチレンビーズのFCS曲線を測定したところ、蛍光ビーズの濃縮が確認された。トラップレーザー光強度依存性を測定したところ、濃縮された蛍光ビーズの数は線形的に増大することが明らかとなった。ここで重要な点は、粒子間の相互作用を無視できる範囲でトラッピングの濃縮を議論できている点である。ボルツマン分布関数からトラッピングのポテンシャルを求めたところ、測定した範囲内では最大で0.2 KTのトラッピングポテンシャルで精度よくナノ物質の濃縮を評価できていることがわかった。粒子サイズと屈折率から従来のレーザートラッピングにおけるポテンシャルを見積もったところ、およそ185倍の増大が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究を開始する段階では、長寿命の光学モードとプラズモンモードを強結合させることやダークモードプラズモンを誘起することによりプラズモンの長寿命化を図り、プラズモンの寿命が光圧に与える影響を明らかにすることに主眼を置いていた。本年度は、それらの構造についても近接場の光学特性や超高速ダイナミクスを明らかにした上で、新たにナノギャップ金2量体構造の設計を変化させないでプラズモンの寿命を長寿命化する方法を明らかにした。共鳴波長は同じでもサイズが全く異なる金ナノロッドをナノギャップ近傍に配置すると、時間領域差分法による電磁解析から完全ではない四重極子モードがナノギャップ付近に生じ、プラズモンが長寿命化する準ダークモードプラズモンが励起されることを明らかにした。また、当初の予定通りコヒーレント制御を行うための実験系も完成しつつあり、光圧を定量評価する方法の確立と相まって、本研究が当初の予定通り順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究において、ナノギャップのサイズをナノメートルに保持したまま、プラズモンの寿命を3倍程度長寿命化することができる構造設計を明らかにした。また、小さいトラッピングポテンシャルでも光圧を定量評価できる方法論を明らかにした。そこで、次年度はプラズモンの寿命を長寿命化した構造での光圧の測定と従来のナノギャップ金2量体構造との比較、およびプラズモンのコヒーレント制御により見かけ上のプラズモンの寿命を制御して(同一構造で元の寿命から短寿命化することができる)、プラズモンの寿命が光圧に与える影響を明らかにする。さらに、班間連携研究により、走査型電子顕微鏡内においてプラズモンオプティカルトラッピングを行い、正確なトラップ物質の位置情報からトラッピングのポテンシャルを定量的に解析する方法論を導出し、プラズモンの寿命の制御が光圧に与える影響について明らかにする予定である。
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