本研究では、溶液中における分子の拡散や熱力学量を短時間で定量できる過渡回折格子(TG)測定を光圧下で行うことにより、これらのダイナミクスが光圧によりどのような影響を受けるのかを明らかにする。研究期間初年度に構築した、過渡回折格子(TG)測定を光圧実験系と融合した測定系(光圧TG測定系)を金ナノ粒子、銀ナノ粒子分散水溶液に適用した結果、光圧の導入時には拡散信号の減衰速度に変化が観測され、さらに縞の位相とともに減衰速度を促進・抑制することができた。この光圧の効果は粒径の増加とともに顕著であり、理論的に予測される縞状ポテンシャル中の拡散挙動の変化をよく再現した。また、塩の添加とともに観測される銀ナノ粒子の会合反応系に対して適用すると、粒子の拡散過程だけでなく、会合体形成速度も増大することが観測され、光圧ポテンシャルによる局所的な粒子の濃縮が会合体形成を促進させることを実証した。 また、凝集誘起発光(AIE)を示すテトラフェニルエテン誘導体(TPEDC)の水溶液に光圧TG測定を適用した結果、pHの低下とともに形成するTPEDCの凝集体のサイズが、光圧によって増大、減少することが観測された。この光圧による変化は凝集体のサイズとともに顕著になる一方で、AIEが起こらない直径10nm程度の凝集体サイズに関しても有意な変化が観測された。この結果は、蛍光や散乱の強度が弱いナノ物質に対しても光圧による変化を検出できることを示しており、光圧TG測定の利点となる一面を実証することができた。
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