研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ナノメートルスケールの構造体を操作する新しいマニピュレーション技術を創出することにある。研究代表者が着目したのは、光の放射圧を用いて微小物体の操作を行える「光圧」技術と、等方的で一様な力学作用である「高圧」技術(もしくは「減圧」)である。これら2つの技術は、従来まで全く異なる研究手法として認知されてきた経緯がある。本研究では、「光圧」と「高圧(減圧)」、2つの技術を組み合わせることで、タンパク質複合体を操作する研究に取り組む。令和元年度は、減圧環境下で光学顕微観察を実施できる「減圧力顕微鏡」の開発を行った。新規に開発した減圧チャンバーは、ステンレスとアクリル製の容器から構成されており、真空ポンプにより内部を1気圧から0.2気圧まで減圧することができる。チャンバー内部にある対物レンズとXYステージは外部から操作できるので、減圧環境を維持したまま,自由に観察場所を変えて、各種の顕微観察像を取得できる。また、近赤外レーザー光を用いて光ピンセットの光学系を構築したところ、減圧環境下で微小物体の2次元トラッピングに成功した。 次に、高圧力による操作技術の研究では、緑藻細胞クラミドモナスの細胞運動を調べた。軸糸構造に欠陥があり泳げない細胞を高圧力下で観察した所、軸糸を滑かに振動させて泳ぎ出す様子を観察できた。高圧力下ではタンパク質表面の水和水が増加することから、水和変化二伴う分子構造変化が軸糸振動を再開させたと考えられる。
|