本研究の目的は、ナノメートルスケールの構造体を操作する新しいマニピュレーション技術の創出にある。研究代表者は、光の放射圧を用いて微小物体の操作を行える「光圧」技術と、等方的で一様な力学作用である「圧力」を変える技術に着目した。これまでは、全く異なる手法として認知されてきたこれらの技術を融合させることが骨子である。令和元年度には、1気圧から0.15気圧まで減圧できるチャンバーを開発し、その中を観察できる減圧顕微鏡を開発した。令和二年度は、この減圧顕微鏡に、高開口数の油浸対物レンズと高出力かつ直進性の高い近赤外レーザー光源を組み合わせて、光ピンセットの光学系を再構築した。光学系が改良されたことで、光源の出力に対して、光捕捉の力をより向上させることができた。この装置を用いて、大腸菌を用いた性能チェックを行った。大腸菌は細胞の周りに生やしたべん毛を船のスクリューのように回転させて推進力を発生させている。開発した装置を用いて、水の中を泳ぐ大腸菌を光ピンセットで捕捉し、その後、開放することができた。捕捉前後で遊泳速度に変化がないことから、非侵襲での捕捉できたことになる。また、減圧し0.15 気圧にしたところ、水の中を泳ぐ大腸菌の割合と速度が大幅に低下した。減圧下にある水溶液中の酸素濃度はヘンリーの法則に従い減少することから、大腸菌は酸欠により運動能を低下させたと考えられる。高圧力下での光捕捉については、耐圧性能と光学性能を両立させた高圧力チャンバーを開発する必要があり、現在、継続中である。
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