研究実績の概要 |
新学術領域三年目、「ポリオキソメタレートの化学反応による直接官能基変換法の確立」を目指して研究を行なった。 ポリオキソメタレート(以下POM)は、化学式が [MxOy]n-(M = W, Mo, V, Ti, Nb, Al など)で表される分子を指す呼称で、4族から7族の遷移金属イオンの周 りにオキソアニオンが配位した [MO6]を基本骨格とした多面体がオキソ架橋により縮合して形成される多核錯体である。POMは、様々なサイズ・構造の設計、電 荷・含異種元素の精密に調整することが可能であり、分子認識化学・材料科学・触媒化学などへ展開されている。本研究では、これまでとは異なる形式の複合ア ニオン型POM錯体の創製を目指す。すなわち、M=O結合を他の典型元素 (O → S, Se, N) に置き換えたPOMの合成と性質解明を行う。一般的に高周期典型元素-遷 移金属間の多重結合に対応するHOMO準位は高く、LUMO準位は低くなることが知られているので、特有の多電子酸化還元挙動を示す。従って、含典型元素-遷移金 属間多重結合を有するPOMの創製は新たな物性を示す材料科学への展開に繋がるものと考えられる。 本研究では、デカバナデート(V10)、ドデカバナデート(V12)、トリデカバナデートユニット(V13)、ヘキサモリブデート(Mo6)を合成し、これらに対し硫化剤を加えることでM=O結合部位(M = V, Mo)をM=S結合へと変換する試みを行なった。その結果、粉末X線、SEM-EDX測定、XPS分析、IR測定などにより、バナデートおよびモリブデートに硫黄原子が組み込まれていることが明らかになった。今後は、構造を明らかにするため単結晶の作成、電子顕微鏡による考察を行う予定である。
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