研究実績の概要 |
強誘電体の強誘電性や誘電分極のメカニズムは、カチオン-アニオン間の結合状態と深く関わっているので、結晶中のアニオンサイトを変化させれば誘電・強誘電特性が変化することは明らかである。しかしながら、複合アニオン誘電体の合成の難しさなどの原因により誘電特性に及ぼすアニオン置換効果はほとんど明らかになっていない。本研究では、ペロブスカイト型酸窒化物および酸硫化物の強誘電体関連物質を合成し、部分窒化あるいは部分硫化による誘電分極への影響をフォノンおよび電子状態の観点から定量的に明らかにすることを目的としている。 該当年度は、NbドープSrTiO3単結晶をアンモニア気流中で熱処理することでSr(Ti,Nb)(O,N)3単結晶を作製した。SrTiO3系では、アンモニア処理により特異的な欠陥構造ができ、それによって効率よく部分窒化が進行することが明らかになった。得られたSr(Ti,Nb)(O,N)3単結晶はノンドープのSrTiO3単結晶に比べて室温で誘電率が有意に高いことがわかった。また、テラヘルツ分光エリプソメータを用いてサブテラヘルツ~テラヘルツ領域の複素誘電率を実測することにより、ソフトモード周波数が部分窒化によって減少することが明らかになった。この結果は、SrTiO3系の誘電率の起源であるイオン分極が部分窒化により増加したことを示唆した。また、第一原理計算によってこの効果を再現することができた。また、BaTiO3系の酸窒化物の合成に挑戦し、これまでBa(Ti,Nb)(O,N)3、(Ba,La)Ti(O,N)3、(Ba,Bi)Ti(O,N)3の合成に成功している。特に、(Ba,Bi)Ti(O,N)3では強誘電性の増強が期待できると考えている。また、第一原理計算と機械学習を組み合わせ、強誘電性の決定因子を明らかにするとともに、強誘電性を増強させるための、置換元素の組み合わせについて検討している。
|